「覚悟」には、技術の習熟はもちろん、適応や術式の決定、想定外事態へのトラブルシュート能力なども含まれる。また「ハートの強さ」や「胆力」も強調され、名心臓血管外科医はサムライに例えられることすらある。
内シャント造設術も、手術であるからには、当然このような「覚悟」が求められる。心臓や大動脈と同じように、手術に適切な皮静脈が1本しかないこともあるし、バスキュラーアクセスの確立は患者の生死に関わる大問題だからだ。
・・だから、たとえ吻合するはずの皮静脈が下図のように前腕中程で破れていても、なんとかしなければならない。
「術前評価が甘かったかな」「静脈の拡張圧が強すぎたかな」・・反省はもちろん必要だ(シャント予定肢にルート・採血禁したかの確認も!)。じっさい筆者は直ちに反省し、心と頭がフリーズしかけた。
しかし幸いなことに、その前日に心臓血管外科医の本(書名もずばり『心臓外科医の覚悟』、山本晋著)を読んでいた。そこで、「登山と一緒で、遭難してもなんとか安全に下山してこなければならない」と気持ちを持ち直すことができた。
で、どうするか?
とりあえず、①他につなげる皮静脈が近くにないか探すか、②損傷部位までなんとか露出させて修復するか、③肘側で一から作り直すか、を思いついた。
結局①の皮静脈はなく、③は侵襲も流量も増えてしまう。さいわい損傷部位が皮切創からアプローチ可能だったため②を選んだが・・正直初めての経験だ。でも、狭窄したら「PTAまたは③」と、覚悟を決めた。
ベストを尽くして7-0プロリン糸で薄く単結節で縫い、漏れは止まった。血管鉗子を解放後の数時間はスリルが不安定だったが、そのあと安定し、さいわい1-2週間で穿刺使用可能となった。
こんなことは、もちろん「ハドソン川のキセキ」くらい稀でなければならない。しかし、手術のたびに「覚悟」は必要だと痛感した。手術もできるようになりたい!という読者には、手技のコツなどの教科書だけでなく「覚悟本」にも触れることをお勧めしたい。
宮本武蔵『五輪書』を元に作成 |