2020/05/20

CKDにとって高カリウムの食事をすることは良いこと!?

今回は、Consの立場にたって前回とは違った立場で見てみたい。
前回、CKDの高カリウム血症を改善させるための手段として、内服薬にフォーカスを絞って話をしたと思う。今回は、CKDにとって高カリウムの食事を取ることが悪くないのでは!?ということについて触れたいと思う。

まず、前提としてカリウムが豊富な食事摂取が健康にとっていいという観察研究や介入研究が多数存在している。
− Hypertension 2014:カリウム 摂取により高血圧の頻度を減らしたという報告。
NEJM 2014:カリウム 摂取量が多くなると高血圧の割合改善。ナトリウムも検討
NEJM 2014:カリウム 摂取量が多くなると死亡率・心血管疾患割合減少。ナトリウムも検討
Stroke 2014:閉経後女性でカリウム 摂取量増加とともに脳卒中や虚血のリスクを減少。


このように高カリウム摂取が健康にいいと言われている反面、CKDにおける高カリウム血症の懸念は悩ましい部分である。


まず、食事でカリウムを摂取して、腎臓がどのようにカリウムの調整を行なっているか(Potassium handling)を見てみる。

下図にも提示するが、腎臓に到達したカリウムはほとんどが近位尿細管(60-80%)とヘンレ上行脚の太いところ(20-40%)で再吸収される。

尿細管にカリウムが排出されるのはアルドステロンに反応して遠位尿細管から排出される。
遠位尿細管のチャネルの主役はENacとROMKとMaki-Kがある。
・ENacでは、Na再吸収が主な働きである。Na再吸収は、①尿細管管腔の流速増加、②遠位尿細管へのNa量増加、③アルドステロン増加によって再吸収量が増加する。
・ROMKはK排泄が主な働きになる。K排泄は、①尿細管管腔の陰性荷電、②アルドステロン作用によって尿細管へのカリウム排出を増加させる。

上記から高カリウム血症の治療で、自尿がある患者でフロセミドが治療を用いる理由を考えてみる。
(フロセミドによって、ヘンレループのNKCC2チャネルの阻害にが起こりNa+とK+の再吸収が阻害。遠位尿細管への流速増加とNa量増加しENacが働き、Naの再吸収→遠位尿細菅腔の陰性荷電→K排出が生じる。尿流量の増加でMaxi-K(BK)チャネルが活性化しK排出が生じる)

ここからは数個質問形式で少しお話しする。
Q:食事摂取で血清カリウムは増加するのか?
食事でのカリウム摂取によって、血清カリウムや血清アルドステロン濃度が増加する前にカリウム尿やナトリウム尿が排出される。これは、摂取によって遠位尿細管のNCCチャネルの阻害が生じ、尿流量の増加や遠位尿細管のナトリウム量の増加が生じカリウム排泄が増えるせいだと考えられている(KI 2013:マウスの実験から)。


Q:カリウムは腎不全の人にとっていいのか?
カリウムが多い食事(フルーツや野菜など)は、繊維やアルカリや微量元素など腎不全の人にとって必要なものが豊富である。代謝性アシドーシスになることで、高カリウム血症を助長するし、腎不全の進行にも寄与することが示唆されている(CJASN 2009)。
また、カリウム含有が多いものに含まれいてるアルカリの摂取量増加は腎結石のリスクを減少させ、重要な役割を果たしていると考えられている(CJASN 2016)。

Q:カリウム摂取量は直接的に血清カリウム増加につながる?
カリウム摂取量と血清カリウムの増加は決して単純に平行というわけではない(カリウムが多いものには炭水化物も多くインスリンも働くなどのため)。

Q:カリウム摂取量とCKD進行の関連は?
The PREVEND studyは尿中カリウム排泄(カリウム摂取量の代替マーカー)の低下がCKDリスク増加と関連していると報告している。

では、尿中カリウム排泄とCKDの進行に関しての報告を別のStudyでも見てみる
CRIC study (JASN 2016):尿中カリウム排泄量低下がCKDリスク増加に関連
MDRD post hoc analysis(AJKD 2016):上記の関連性はない。
KNOWN-CKD(CJASN 2019):尿中カリウム排泄量低下がCKDリスク増加に関連
KNOWN-CKD
上記からわかるように尿中カリウムをマーカーとして、直接的にカリウム摂取量で検討している研究は少ない。現在進行中の研究のK+in CKDはCKD3b/4の人を対象に経口カリウム摂取の腎保護作用を見ている研究になる。

主旨は違うが、高血圧によるCKDの代謝性アシドーシス治療に対して、重炭酸治療と野菜やフルーツなどのカリウム摂取治療と通常治療を比較したものがある(CJASN 2013KI 2014)。この研究では重炭酸投与とフルーツ野菜など投与した群ではアシドーシスの改善と腎機能低下が抑えられたという報告がある。ただ、この研究ではカリウムが上がるリスクがある糖尿病患者、投与前にK4.6mmol/L以上は除外している。


CKD患者やESKD患者のカリウム摂取をすることの有用性は、今後のRCTを見てみないとはっきりは言えないが、個人的にはCKD患者であれば、
・高カリウム血症がない場合(Kの数値としては前の論文の4.6mmol/Lをカットオフとするのはいいかも)
・食事以外で、代謝性アシドーシス、コントロールが悪い糖尿病がある場合、組織の破壊が起きている、便秘がある、Kを増加させる必要のない薬剤を内服している場合にはそれらの介入を行う。
上記がクリアできれば、栄養相談もしながらカリウム摂取の過度な制限はかけなくてもいい可能性が高い(透析患者ではCKD患者に比べれば、高カリウム血症のリスクはあがる)。

もし、カリウムが上がっても先に述べた薬も使いながらカリウムを過度に制限しないような生活を過ごすことが、体にとっても非常に大切なことなのかもしれない。