2020/05/14

りんごと腎臓

 これは一体?


 特に既往歴のない40歳代女性が発熱、全身倦怠感で来院した。バイタルサインは安定している。元気にお話できている。ところが、Cr1.3mg/dl(ベースのCr0.8mg/dl)かつ炎症反応も軽度上昇している。


 Cr0.3mg/dl以上の上昇でありAKIである。いつものAKIの鑑別かと思うだろう。もちろん自分もそう思った。緊急透析の適応を確認、腎後性の否定、尿定性検査、尿沈渣を提出して...という流れだ。基本的な流れは抜けなく行うことが重要である。

 さてその間に何をするかというと、患者さんとの直接の対話すなわち病歴聴取である。「どんな背景の患者に」、「どんなことが起きて」腎障害が発生しているかをつかむことが診断につながることが多い。この患者さんに問うと、病気になった子供とのコンタクトがあったとのこと。先行感染ありか...その時は特に何も感じず診察が進んでいった。

 診察すると下肢に紫斑ができている。あれ、感染を契機とした紫斑性腎炎か?はたまた心内膜炎などの菌血症なのかそれとも膠原病などあるのかなどと思っていた。


 感の鋭い方は気づいたかもしれないが、子供が病気だったからさらに突っ込んで聞くことで、大きく展開は動く。1週間ほど前に子供がりんご病だったとのこと。

 はて、りんご病すなわちパルボウイルス感染と腎臓は何か関係があるのだろうか?そんな疑問をお持ちの皆様に簡単にご紹介するのがこれ(CJASN 2007 2 S47)。


 パルボウイルスといえば、伝染性紅斑、赤芽球癆、多関節炎、胎児水腫を起こす自然界で最も小さい、single strand DNAウイルスである。潜伏期として5-6日あると言われる。病原性はNon-structural protein というもので規定され、赤血球前駆細胞に感染し前述したNPにより融解したりアポトーシスを起こしたりする。血中のピークは8-9日、IgMは曝露から10-12日で現れ, IgGは14日目ほどで現れるとされる。

 臨床兆候は、患者の年齢、血清学的異常、免疫状態により規定される。免疫抑制患者(特に細胞性免疫低下者)により重度の症状が出ることがある様だ。

 さてここで腎臓とB19感染だ。現時点で想定されているのは、糸球体に対する免疫複合体沈着により糸球体腎炎様の経過を呈する症例報告がある。病理学的には、Endocapillary proliferative glomerulonephritisが最も多いと報告されている。


 本末転倒な話であるが、パルボウイルス感染によって確実に腎障害が起きているのかを証明することは難しく、PCR法などを実施し同定しようとする試みがある様だ。治療は現時点で特異的なものはなく、IVIGが有効かもしれないとする報告がある。


 りんごと腎臓、関連が意外とあるものだ。

 
 
(とあるサイトより)