2019/11/28

内シャントは透析のためならず?

医師 「そろそろシャントを作ったほうがよいと思います」
患者 「シャントを作ったらすぐに透析になっちゃうんですか?」

 日本透析学会のガイドラインは、「透析導入の少なくとも1か月以上前のAVF、AVGの作製」を推奨している(透析会誌 2013 46 1107)。日本はAVF作製から穿刺までの期間が約2週間と圧倒的に短いので、それに少し余裕を持たせた「1ヶ月以上前」となっているのだろう。

 いずれにしても、「透析をするからシャントを作る」のであり、「シャントを作るから透析になる」わけではない。それどころか、先日BMC Nephrologyにでた論文によれば、「シャントを作ることで透析導入を遅らせられるかもしれない」(doi:10.1186/s12882-019-1607-4)。

 一施設の後ろ向きスタディであり質は高くないが、カナダにある大学病院のCKD外来で内シャント(グラフト、カテーテルは含めず)を作製された146人の患者について、作製前後のeGFRを見直してみると、以下のようなeGFRのスロープが得られた。論文著者によれば、以前からこの傾向を示唆するスタディはいくつか発表されていたという。


前掲論文より


 グラフによれば、eGFR低下率は、内シャント作成後に-3.6から-2.2ml/min/1.73m2/年と、有意に抑えられた。eGFR低下に対する有効な治療の少ない現状では、注目に値する数字だ。なにせ、eGFRが12から8ml/min/1.73m2に下がる期間が、半年以上延長される計算なのだから。

 しかし、筆者も論文著者も、「シャントってすごい!」と飛びつくほどナイーブではない。交絡因子として、RAA系阻害薬の開始・中止などは考慮されているが、内シャント作製を機に患者の治療アドヒアランスが向上した可能性などは否定できない(上図も、よくみるとシャント作製前からスロープが平らになっている・・)。

 それでも、内シャントの腎保護作用を説明しうる機序がないわけではない。一つは内シャント作成時の動脈クランプや、作製後の軽度の手指虚血などによるRIPC(remote ischemic pre-conditioning、こちらも参照)効果。もう一つは、シャント血流による全身血管抵抗の低下や心拍出量の増加による腎潅流の改善だ。

 じっさい、この論文でもシャント作製後には拡張期血圧が4mmHg程度、有意にさがっていた(この現象は他でも実証されている、Am J Hypertens 2019 32 858)。また、移植後にシャントを閉じたら腎機能が低下したというスタディもある(NDT 2017 32 196)。
 
 ただし、非生理的なシャント血流はいわば諸刃の剣であり、血流量と心機能によっては高拍出量性心不全を起こす(こちらこちらも参照)。今回の論文では心不全患者が6%と少なく、シャントの血流量・タイプ(上腕・前腕など)は考慮されていない。心機能低下例の多い患者コホートに大血流シャントを作製していたら、違う結果になっていただろう。


 何であれ、透析を始めるにあたってはバスキュラーアクセスがあったほうがよく、なかでも内シャントが望ましいことは周知の事実である(こちらも参照)。今後こうした研究が進み、患者さんに「(適切な症例に適切な血流と種類の)シャントを作ったら腎臓が長持ちしますよ」と言えるようになれば、一石二鳥なのだが。



ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』より