しかし、先月の米国内科学会雑誌には、「赤身肉・加工肉の摂取を制限しないことを弱く推奨する」という衝撃のガイドラインが発表され(Ann Intern Med 2019 171 756)、大変な騒ぎになっている(下図はGoogleの検索予想)。
7カ国の(肉摂取量にもばらつきのある)14人のパネリストが結論したのは、現状ある(被験者数はおおいが質はたかくない)エビデンスが示す赤身肉・加工肉の健康への悪影響は小さく、生活習慣・個人の嗜好・食文化などを変えるほどではない、というものだった。
ただし、肉食が避けられているのには健康志向だけではなく、動物愛護や地球環境への懸念も大きい。肉を作るには大量の牧草地や飼料が必要だし、国連食糧農業機構は14.5%の温室効果ガスが家畜・畜産由来であると警告しているからだ(なお上記推奨は、それについては加味しなかったことを明言している)。
そこで、CO2負荷が少ないと注目を集めているのが「植物肉(plant-based meat)」だ。血の色をビーツ色素やレグヘモグロビン(マメの持つヘム分子;じつは日本の久保秀雄博士が発見した、Acta Phytochimica 1939 11 195)で再現し、流体力学を駆使した押出成形で肉に似た繊維を作る(Journal of Food Engineering 2016 169 205)など、食感は格段に肉に近づいている。
ただし、「植物肉」が肉よりも健康によいかは分からない。
蛋白が植物由来なことは確かだが、飽和脂肪酸は肉とほぼ同量であるし、塩分はむしろ肉より多く、"impressive amount"のリンが含まれるそうだ(成分栄養表にリンの表示義務がないため詳細は不明、こちらも参照)。工場でつくられる点では無菌的が、添加される化学物質の害を心配する消費者団体の声もある(動物由来の加工肉でも同じかもしれないが)。
現時点では高級肉よりも高価であるが、米国ではバーガー・キングやケンタッキーなどの外食産業に取り入れられるだけでなく、ホール・フーズで肉の陳列棚に並んで置かれるなど、生活に浸透しつつある。腎臓関係の雑誌にもそのうち「植物肉とCKD」「植物肉と高リン血症」のようなレビューがでるだろう。
日本でも、2016年に三井物産がビヨンド・ミート社株を少量取得し、米国一部店舗でインポッシブル・フーズ社のインポッシブル・バーガーを提供するウマミ・バーガーが2017年に日本一号店をオープンさせる(2019年11月現在、日本の店舗では提供していない)など、進出の予兆がみられる。五輪でベジタリアン人口が一時的に増えることも、後押しになるだろう。
ひょっとすると「来年の一皿(特別国際賞、急上昇ワード賞など)」・・なんてことも?