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2019/11/24

肉食アップデート

 2016年に薄切り肉、2017年に赤身肉、と折に触れて「肉記事」を紹介してきた本ブログ。2年ぶりに、肉をめぐる世界の状況をアップデートしたい。健康志向の流れは今も続いており、日本でも「肉バル」などが礼讃されるいっぽうで、2017年の「今年の一皿」に「鶏むね肉料理」が選ばれる(2018年には肉料理が一切登場しない)、などの現象がみられた。

 しかし、先月の米国内科学会雑誌には、「赤身肉・加工肉の摂取を制限しないことを弱く推奨する」という衝撃のガイドラインが発表され(Ann Intern Med 2019 171 756)、大変な騒ぎになっている(下図はGoogleの検索予想)。




 7カ国の(肉摂取量にもばらつきのある)14人のパネリストが結論したのは、現状ある(被験者数はおおいが質はたかくない)エビデンスが示す赤身肉・加工肉の健康への悪影響は小さく、生活習慣・個人の嗜好・食文化などを変えるほどではない、というものだった。

 ただし、肉食が避けられているのには健康志向だけではなく、動物愛護や地球環境への懸念も大きい。肉を作るには大量の牧草地や飼料が必要だし、国連食糧農業機構は14.5%の温室効果ガスが家畜・畜産由来であると警告しているからだ(なお上記推奨は、それについては加味しなかったことを明言している)。

 そこで、CO2負荷が少ないと注目を集めているのが「植物肉(plant-based meat)」だ。血の色をビーツ色素やレグヘモグロビン(マメの持つヘム分子;じつは日本の久保秀雄博士が発見した、Acta Phytochimica 1939 11 195)で再現し、流体力学を駆使した押出成形で肉に似た繊維を作る(Journal of Food Engineering 2016 169 205)など、食感は格段に肉に近づいている。

 ただし、「植物肉」が肉よりも健康によいかは分からない。

 蛋白が植物由来なことは確かだが、飽和脂肪酸は肉とほぼ同量であるし、塩分はむしろ肉より多く、"impressive amount"のリンが含まれるそうだ(成分栄養表にリンの表示義務がないため詳細は不明、こちらも参照)。工場でつくられる点では無菌的が、添加される化学物質の害を心配する消費者団体の声もある(動物由来の加工肉でも同じかもしれないが)。

 現時点では高級肉よりも高価であるが、米国ではバーガー・キングやケンタッキーなどの外食産業に取り入れられるだけでなく、ホール・フーズで肉の陳列棚に並んで置かれるなど、生活に浸透しつつある。腎臓関係の雑誌にもそのうち「植物肉とCKD」「植物肉と高リン血症」のようなレビューがでるだろう。

 日本でも、2016年に三井物産がビヨンド・ミート社株を少量取得し、米国一部店舗でインポッシブル・フーズ社のインポッシブル・バーガーを提供するウマミ・バーガーが2017年に日本一号店をオープンさせる(2019年11月現在、日本の店舗では提供していない)など、進出の予兆がみられる。五輪でベジタリアン人口が一時的に増えることも、後押しになるだろう。


 ひょっとすると「来年の一皿(特別国際賞、急上昇ワード賞など)」・・なんてことも?





2017/02/16

チキン?それともビーフ?

 病院の医局にいけばだいたい本棚があって、ふるい雑誌が並んでいる。背表紙が日に焼けていることもあるが、それを背にして話すとなんとなく権威的だ(テレビの取材などでみかける)。紙媒体はかさばるし、資源と輸送の手間の無駄だし、捨てるたびに気が咎めるが、何にでもいい面はある。きょう届いたJASN紙媒体にでた赤身肉とESRDリスクの論文は(JASN 2017 28 304)半年以上前にオンラインで発表されていたが、紙で遅れて来たので読み直すきっかけになった。

 45-74歳の中国系シンガポール成人コホートをフォローし、165項目の半定量的な食事質問票をもとにさまざまな蛋白源の摂取量別にESRDリスクを解析すると、赤身肉、鶏肉、魚介、卵、豆類などを調べると、赤身肉に有意に用量依存性の相関がみられた。赤身摂取量が多い群は野菜とくだものの摂取量がすくなく、運動量も少なかったが、それらを加味した多変数解析でも、もっとも多い群は少ない群よりESRDリスクが40%たかかった(CI 1.15-1.71)。

 Singapore Chinese Health Studyは生活習慣とさまざまな疾患の関係を調べるために1993年から1998年まで行われた。シンガポールは都市国家で、対象の中国系は遺伝的社会的に均質性が高く、疫学研究が行いやすかったのかもしれない。質問票の正確さについて検証が不十分などの批判的吟味は必要だが、結果には一定の説得力がある。またたんぱく摂取量があまり多くない日本で、量を減らすより質をかえるほうが有効ならば治療改善の余地があるから、スタディする価値があると思う。つづく。
 
 


2016/10/25

薄切り肉を圧力鍋で茹でる

 東洋医学で医食同源とか身土不二(신토불이、シントブリ)とかいうし、西洋はyou are what you eatとか言うけれども、腎臓内科ほど栄養・食事と深く関わる科もそうないのかなと思う。なかでもリンは、透析であまり除けないのに多くの食品に入っているので、その人ごとにあわせた工夫が必要だ(最近は大手コンビニでもパンや加工食品のリンを減らしているところがある)。

 それで腎臓系で栄養系の雑誌というのもたくさんあって、以前に肉をさまざまな方法で調理することでリン残量が変わるかをみた論文(J of Renal Nutrition 2015 25 504)があった。結果、薄切りした肉を圧力鍋で茹でるとリンがもっとも落ちたという。煮汁は捨てなければならないだろうから、どう味を保つかは別問題だが(フルで論文を読めば提案してあるかもしれない)。

 なお、これは日本の研究だ。見なくてもわかる。薄切り生肉は東アジアの食文化だと思われるからだ。米国のスーパーや肉屋にいっても薄切りした生肉はみない(ハムなどの塩漬け肉、ローストビーフのような調理済みの肉は除く)。東アジア食材店にいけば、ある。どうしてだろう。

 明治時代に日本人の口に合うよう肉をスライスしたのかと思ったが、肉食がもともとさかんな中国や韓国でもスライスしている。なます(膾、회、フェ)とか。お箸でつかみやすいからだろうか(ナイフやフォークは東洋にはなかったと思われるので)。東洋の包丁がスライスにもっとも適しているからだろうか。タレなどの味付けがよく滲みるのだろうか。