2019/11/06

ハイジニストからの忠告

 54歳男性。高血圧のため、4年前からニフェジピンを内服している。2年前から歯肉増殖を自覚していたが、徐々に増悪して歯列不正・歯肉出血も見られるようになったため、口腔外科を受診。

 前歯部切縁が接触しないほどの歯列不正、 歯周ポケットの開大(平均8.3mm)、すべての検査部位でプロービング時に歯肉から出血、3本を除くすべての歯に動揺あり。歯周基本治療に加えて、降圧薬選択に関して内科対診を依頼。


Q:どうしますか?


 冒頭の症例報告(日歯周誌 2007 49 55)は、2006年の日本歯周病学会春季学術大会で記念すべき第一回「ベストハイジニスト賞」を受賞しているので、すでにご存知の読者もおられるかもしれない。

 カルシウムチャネル拮抗薬(CCB)といえば、「他クラスにくらべて心保護・腎保護といったエビデンスは目立たないが、副作用が少なくて使いやすい薬」というイメージをお持ちの方が多いだろう。

 しかし、歯科口腔外科領域では様相が異なる。そこでは、歯肉腫脹を起こす三大薬物として、抗けいれん薬(有名なのはフェニトイン)・シクロスポリンの次に、CCBが挙げられているのだ(Mayo Clin Proc 1998 73 1196)!写真は前掲論文PDFなどで確認されたいが、審美的にも機能的にも極めて重大な問題だ。

 CCBのなかでは、第一世代で脂溶性の高いニフェジピンに歯肉腫脹の報告が最も多い(38%、Ann Int Med 1994 120 663)。しかし、頻度は低いものの、アムロジピン、ベラパミル、ジルジアゼムなど他薬でも(ジヒドロピリジン系かを問わず)みられる。①男性、②歯周・口腔内の不衛生、がリスク因子に挙げられる。

 機序として、①線維芽細胞で細胞内へのCa2+流入が起こらず、コラーゲンを分解するコラゲナーゼ産生が低下する、などと言われるが、詳細は分かっていない。炎症や、線維芽細胞の増殖に関する、さまざまな因子が研究されている(J Hum Hypertens 2014 28 10)。

 治療は、一番は歯周基本治療のようで、ニフェジピン性歯肉増殖症を「薬剤変更なしに非外科的に改善した症例」といった報告も存在する(日本歯科評論 2006 759 149)。冒頭のケースでも、著者は「Ca拮抗剤を服用中の患者においても、十分な口腔衛生管理が行われれば歯肉増殖の予防は可能」と考えている。

 しかし、内科医がこのような対診を受けたら、他クラス降圧薬か、さもなければニフェジピン以外のCCBにしてはどうかと思われる。

 そもそも「ゼッタイにニフェジピンでなければダメ」という症例はそんなに多くない。27週妊婦の妊娠高血圧症であっても、ニフェジピンで歯肉増殖が起きたあとはメチルドパに変えた報告があるほどだ(変更後に歯肉増殖は軽快、Curr Drug Saf 2017 12 3)。


 CCBは使いやすく安全性も高いクラスであるが、確率は低くても頻用されているので、掛け算すれば歯肉増殖症例はかなりの数いるのかもしれない。そして、内科医が知らぬ間に、ハイジニスト達のもとへ駆け込んでいるのかもしれない。

 筆者は正直、CCBに歯肉腫脹の副作用があることすら知らなかった。もしそんな読者が他にもいたら、CCB処方時には、①ニフェジピンでなければダメか、②患者の歯周衛生はどうか、そして③数ヵ月後に増殖がないか、くらいは確認されるとよいだろう。