腎臓内科医師が使う薬剤で最も近年注目を浴びているのが, SGLT2阻害薬である. 当初はDMの治療薬として登場したが, 血糖降下作用以外の心血管イベント予防や腎イベント予防などが次々と明らかになり徐々に適応が拡大してきている.
ただ「First, do no harm」という言葉があるように, 常に薬剤の良い部分だけでなく注意する部分にも目を向ける必要がある.
SGLT2阻害薬の副作用の代表として腎機能障害が有名であるが, いくつかの要因が加わることで生じるDKA(糖尿病性ケトアシドーシス)も忘れてはならない. 今回は参考にしやすい文献があったので簡単にご紹介する.
SGLT2阻害薬内服中の患者がDKAを呈した場合, 1/3の患者の血糖値は正常と言われている. これをEuglycemic DKA(血糖正常DKA)と呼ぶ. ただ残り2/3はもちろん通常のDKAであり血糖値も上昇している.
これまではDKA/HHSといえば血糖値も上昇していることが当然だったので, まずこの疾患のことを知る必要がある. なぜなら, 血糖上昇が軽度(<250mg/dl)であるため, 多飲や多尿も軽度であり重篤感が一見認められず見逃されることがあるからである.
頻度は観察研究で, 2型DM患者の場合, 1.3-8.8イベント/1000人・年であり1型の場合, 7.3イベント/1000人と1型DMの患者の方が発症しやすい. 特にSGLT2阻害薬を新規に開始してから180日以内に発症することが多いと言われている.
ここからはQ and A形式で解説する.
Q SGLT2阻害薬とケトアシドーシスの関係は?
実はSGLT2阻害薬は複数の臓器に作用している. 言葉で全てを表現するのは難しいため, 本文中の図.1を引用する. SGLT2阻害薬自体にケトン体産生を亢進する作用があり血中ケトンが高値となる. 最終的には, 肝臓からの血糖産生より高血糖が, 腎臓からの血糖排出によりEuglycemicとなるので両者を天秤にかけた時の傾きで最終的に血糖が高いか正常かが決まる.
図1:ケトアシドーシスの状況でのSGLT2阻害薬の働き
Q 注意すべき背景因子は?
複数ある. 特に, 過剰なアルコール摂取や違法薬物使用者, 食事の偏り(低炭水化物食, ケトン食), 妊娠(現在妊娠を試みている or 妊婦), DKAの既往あり, インスリンへのコンプライアンス不良, インスリン持続ポンプの使用 などが挙げられている.
Q どんなイベントで発症するのか?
嘔吐, 脱水, 急性の感染, 手術のための入院や緊急入院, インスリンの効果不良 などいわゆるシックデイの状況が生まれることが発症しやすい要因である.
Q 診断は?
SGLT2阻害薬を内服している状況で, 血中ケトン上昇とアシドーシスを認めることで診断される. また, 1/3が血糖値が正常であることに注意が必要である. ここでケトン体測定が血中ケトンとされているのは, 尿ケトンと比較して測定できるケトン体の種類が異なるためである.
血清ケトン体:3分画であるβヒドロキシ酪酸, アセト酢酸とアセトンを検出
尿中ケトン定性:ケトン体3分画のうちアセト酢酸とアセトンは陽性と出るが, βヒドロキシ酪酸は陰性
DKAの際は尿中のβヒドロキシ酪酸の割合が増加する為, 尿ケトン体測定では陰性とでうるためである. 他のアセト酢酸とアセトンは尿中ケトン陽性となるが割合が低下しているため, DKAでもしばしば尿ケトンは陰性だが血中ケトンは陽性となる)
Q 治療は?
STICH protocolで対応する. 一部強引に頭文字を取った語呂であり, Stop sglT2 inhibitor:SGLT2阻害薬を中止, Inject bolus insulin:インスリン投与, Consume 30g 炭水化物:適度な炭水化物の摂取(インスリンと併せて, ケトン体産生を抑制するため), Hydrate:補液と呼ばれており, 薬剤を中止する以外は普段のDKA/HHSの対応と何ら変わりない.
Q 予防は?
SGLT2阻害薬を内服しているとある一定の確率で起きうることを医療者も患者も認識しておくことが重要であり, 患者毎のリスク因子, また新規イベントがあった時に受診するように促す.
SGLT2阻害薬はとても期待されている薬であり慢性腎臓病, 糖尿病, 慢性心不全の今後の管理に大きな影響を与えると考えられている. 注目されている薬だからこそ, 様々な側面を理解して適応のある患者さんには使用していきたいと思う。