2013/04/06

Canagliflozin 2/2

 今のところSGLT2阻害薬が認可されている(SGLT1阻害薬も開発されているが)。SGLT2は腎が主な発現場所(脳や肝臓にもあるが)で、これに異常があると腎性尿糖になるが、患者さんに大したことは起こらない(子供のおねしょという話もあるが)。一方SGLT1は腸管での発現がメインで、これが異常だと吸収不良で下痢になる。

 SGLT2阻害剤の良い点は、血糖が下がり、体重も減ること(カロリーを捨てているから)。多量の尿糖により血糖が下がれば尿中に捨てられる糖も減るので、低血糖が起こりにくいかもしれない。さらに尿糖により浸透圧利尿がかかり、尿細管流量の増加を感知したmacula densaがTGフィードバックによりGFRを下げて早期糖尿病性腎症のhyperfiltrationを緩和するかもしれない。

 心配な点は、尿路感染症、カンジダ症、体液量減少による低血圧、腎機能がよくないと効かないかもしれない、膀胱上皮が長期グルコースに曝され続けることによるがん化リスクなど。Systematic reviewによれば感染症は有意に多かったが軽度だった(BMJ Open 2012 2 e001)。血圧低下は、むしろ効能と考えられているようだ。

 がん化リスクは先行薬dapagliflozinのFDA認可が見送られた主な理由だが、detection biasと言われている。腎機能についてはGFR 30-50のCKD 患者に半年試したデータがあり、効いていた(doi:10.1111/dom.12090)。GFRが最初の三週間で3-4ml/min/1.73m2下がったが、以後はそのままで経過した。


[2020年10月6日追記]上述のSGLT2遺伝子異常は、原発性腎性尿糖(primary renal glucosuria、OMIM 233100)と呼ばれる。表現型によってグルコース再吸収障害には差があるが、1987年には再吸収がまったくない症例が「0型」として報告された(Clin Nephrol 1987 27 157)。

 11歳男児だった症例は、1歳からの湿疹、持続する夜尿・頻尿・多飲などあり、調べると1日109-141gのグルコース排泄がみられた。さらに調べると、SGLT2遺伝子に5塩基欠損(973-977、ATGTT、エキソン8内)をホモで持っていた(両親ともヘテロ;遠い親戚にあたる)。

 尿糖のほかには蛋白尿やアミノ酸尿もなく、腎機能や電解質も正常であった。ただし、身長はひくく、性的成熟(pubertal development)は遅れていたという。

 その後、どうなったか?

 20年後の報告(NDT 2004 19 2394)によれば、身長は175cmにのびた(ドイツ人男性の平均からすれば25パーセンタイル)が、性的成熟については記載がなかった。湿疹は、変わらずみられた。尿糖は持続し、日々3-5Lの水分を飲んでいたが、血糖は正常で、体重は74kg(BMIは24)。血圧は125/85mmHgであった。

 また尿糖以外の腎機能については、血清クレアチニンが0.6mg/dlで、血清電解質異常はなかった。なお、蛋白尿は陰性であったが尿電解質のなかでは尿Ca/Cr比がたかかった(1.07mmol/mmol、正常は0.57未満)。

 
ところで、〇〇阻害薬がでると、「〇〇遺伝子がまったくなかったら、どうなるの?」と考えたくなるものである(たとえばPCSK9遺伝子など)。