20世紀前半にmicropunctureなどにより糸球体ろ過/尿細管再吸収を中心にネフロンの機能が解明されていった。糸球体ろ過/尿細管再吸収は進化の頂点にある驚異的に洗練されたデザインだ。それにしても世界中どこのエンジニアが、体液を浄化するのにそのすべてをいったん外に出して、必要なものを再吸収してからまた体内に戻すことで老廃物を除くなんてシステムを考えつくだろうか(Homer Smithの"From Fish to Philosopher"より)?
そんな魅力的なシステム、糸球体ろ過/尿細管再吸収の研究が進むあいだに尿細管分泌の研究は脇におかれた。尿細管分泌の研究者は自分達を「異端者(heretics)」と呼んでいるほどだ。しかし今回はそんな彼らにスポットを当てて、腎の分泌メカニズム、そしてその今日的な意義について書いてみたい。
毒物など身体から積極的に除去したい物質は、尿細管分泌が糸球体ろ過を補って毒物が血液が腎臓を一回通過するだけでほぼ100%除去できるようになっている。Homer Smithが1945年にPAHを用いて実験し(JCI 1945 24 388)、JJ Granthamにより有機溶質が近位尿細管で分泌され、その輸送はNa+-K+-ATPaseとリンクしていることがわかった(Physiol Rev 1976 56 248)。
その後、有機陽イオン分泌については、OCT、MATE(陽イオン/H+ exchanger)などの輸送タンパクが見つかった。有機陰イオン分泌についてはNaDC(3Na+-R(COO-)2トランスポーター)、OAT、OATPなどが見つかった。こちらは、NaDCによってNa+-K+-ATPaseの電位差でα-ketoglutarateの勾配が生じ、それによりOATがα-ketoglutarateと有機陰イオンをexchangeしている。
なお、抗体がDNA再構成によって無限の抗原に対応しているのと対照的に、尿細管分泌に関わるトランスポーターは特異性がものすごく広い。除去したい物質のリストなど無限だし、未知の有害物質(薬とか)もあるのに、腎臓は数種類のトランスポーターだけで除去物質を何でもかんでも認識している。この仕組みはまだ分かっていない。
とまあ、ここまでは教科書にも載っている正統的な知識だ。さあここから、いまだ少数派にしか受け入れられていないことを書こう。その内容とは?つづく。