今週のJournal Clubは、重曹より野菜や果物を摂ろうという、一風変わったトピックだった(KI 2012 81 86)。同じ号のエディトリアル(KI 2012 81 7)の題名も「CKD(慢性腎不全)の進行を止める鍵は薬局ではなく市場にあるかもしれない」と刺激的だ。どういうことか。
重曹はCKDの末期で透析を遅らせるために用いられる(有効性を示したスタディはJASN 2009 20 2075)が、CKDの早期であっても病気の進行を抑えるというデータもある(KI 2010 78 303)。アシドーシスが腎不全を進行させる機序の一つは、アンモニアがC3のconformational changeを起こすことによる補体経路の活性化だ(アンモニアがC3分子内のthioester bondを解くらしい)。
重曹はアシドーシスを改善するが、ナトリウムも摂取するので体液貯留や血圧上昇の心配がある。そこで、重曹の代わりに食事でAlkaliを摂ろう、というわけだ。ここで、アルカリ食品という意味を説明しなければならない(オレンジジュースがアルカリと言われても混乱するでしょう?)。
酸の電離式をおぼえているだろうか(HA⇔H+ + A-)。アルカリ食品とは、このA-(具体的には有機酸のlactateやacetate)を含む食事のことだ。これらは細胞内でTCAサイクルに入る際にH+を食う。このH+は、水と二酸化炭素から来る(H2O + CO2 ⇔ H+ + HCO3-)ので、結果的にHCO3-が生まれる。だからアルカリ食品なのだ。
逆に酸性食品とは、基本的に肉のことだ。肉、タンパク質にはtitratable acid(滴定酸、sulfateなど)が多く、腎臓にとってacid loadになる。各食品のミネラル元素(Na、K、Ca、Mg、Cl、PO4、SO4)、タンパク質の比率、それに腸管からの吸収率を勘案して、potential renal acid loadを算出したデータ(J Am Diet Assoc 1995 95 791)によると、アルカリ性食品(野菜・果物・ワイン)のなかではレーズンとほうれん草が飛びぬけてアルカリだった。
Alkali-rich dietは、重曹にくらべて優れているのか?このスタディはrenal acid loadを50%下げる等価のアルカリ食品と重曹をCKD stage 1、2の患者群それぞれに30日摂取してもらい、尿中の腎障害マーカーとされる分子(N-acetyl-beta-D-glucosaminidaseなど)を測定した。結果はCKD stage 1ではどちらも効果なし、Stage 2では両者ほぼ同効果だった。
研究グループは、食品のほうがカリウムも多いし血圧低下効果もあるから、重曹よりも食品がいいかもしれないと言う。野菜や果物は、腎臓のみならず多くの面でおそらくヘルシーなはず(常識的にもそう)だが、このように科学的に示そうするのも大事かなとは思う。
[2013年3月追加]CJASNにStage 4 hypertensive CKD患者を対象にした同様のスタディがでて、TCO2(HCO3のこと)は野菜より錠剤のほうが上がったが、腎障害の尿マーカーの改善は大差なかった(CJASN 2013 8 371)。野菜と果実にはKが多く含まれるが、血清Kにも差はなかった(アルドステロンが働いたせいか)。
[2013年4月追加]動物モデルの論文。7/8腎摘ラットでNaHCO3投与が生理食塩水投与に比べてアンモニア産生を抑えC3活性を抑えた(JCI 1985 76 667)。5/6腎摘ラットにcalcium citrateとcaptoprilを投与し組織学的に傷害が抑えられた(KI 2004 65 1224)。2/3腎摘ラットで腎組織のH+量をmicrodialysisで測るとGFR低下に相関していた(KI 2009 75 929)。2/3腎摘ラットでH+貯留に相関したendothelin-1とaldosteroneをアルカリ投与が緩和した(KI 2010 78 1128)。