2012/09/21

教えて学ぶ

 レジデントがRenal Grand Roundで発表するのを手伝うのも教育の一つだ。一人はIntra-abdominal hypertensionとabdominal compartment syndromeについて発表するがパワーポイントを見て欲しいという。このトピックは定義自体も曖昧だったし、エビデンスが確立した治療もない領域なので、病態生理とintra-abdominal pressureの測定方法に終始しがちだ。実際、彼女のパワーポイントもそれがほとんどだった。

 それでは面白くないので、彼女が見つけたレビュー(AJKD 2011 57 159)に提案されていたexpert opinionの診療アルゴリズムを詳しく説明するように薦めた。「治療法は確立していない」というよりも、「とりあえずこれ」と提案したほうが役立つし、議論のしようもある。また、アルゴリズムというのは、私の意見では頭のいい人が頭の悪い人を頭の悪いままにしておくための道具(考えなくてもそれに従えばいいから)なので、一つ一つのステップを解説して頭を使おうというわけだ。

 もう一人は、LVAD(左室補助装置)の溶血によるpigment nephropathyについて話したいというが、それに特化した論文がなくて困っていた。それで、Pubmedでいくつかキーワードを入れて、目ぼしいのを探してあげた。なんとか一件引っかかったが、その過程で論文のreferenceの孫引きや、Google Scholarでその論文を引用している論文に当たるなどのテクニックを紹介できたのが有益だった。発表の最後で、スライドに"Thanks to (指導医の先生と私)"と書いてくれて嬉しかった。

 彼の発表は、hemolysisによって起こる病態生理の変化について解説したレビュー(JAMA 2005 293 1653)にある美しい図を用いて、ヘモグロビンがヘム、グロビン、鉄とバラバラになってそれぞれがNOを消費したり血小板凝集を起こしたりする様子を説明したり、ヘモグロビンによる腎障害について説明するスライドのタイトルを"Hemoglobin and You(聴き手が腎臓内科医だから)"としたり、粋だった。

 LVADによるpigment nephropathyにおける尿のアルカリ化についても触れていた(エビデンスはない)。聴衆からは、(横紋筋融解とちがって)溶血が慢性でマイルドなので有効かもしれないという意見がでた。もっとも、LVADが塞栓で詰っている場合はそれを溶かすかポンプを変えるのが常道だろうが。川の水が上流の工場から出る廃棄物で汚染されたら、工場を閉めるか廃棄物が漏れないようにするのと同じことだ。