今月は仕事が忙しくなくて、読む時間があるので勉強になる(それに、他のアカデミックなプロジェクトが色々進んでいる)。読むのはだいたい症例で経験した臨床的なトピックに関する論文で、今日は慢性腎不全と貧血についてのレビュー(JASN 2012 23 1631)を読んだ。
貧血が慢性腎不全患者のほぼ全員に起こり、QOLを下げ多くの疾患のリスク因子であることは既に知られている。EPO(erythropoietin)が1950年代に発見され、1980年代にrecombinant human EPOが作られたまでは良かったが、それで話は終わらない。
まず、ESA(erythropoiesis stimulating agent)によりHgbを上げ過ぎた群では死亡や疾患リスクが高かった(secondary analysesでは高いHgb自体ではなくEPO resistanceがリスクと示されたが)。それで、KDOQIガイドラインは"should generally be in the range of 11.0 to 12.0 g/dL"だった。
さらに、最近のKDIGOガイドライン(KI supplement 2012 2 299)では"In general, we suggest that ESAs not be used to maintain Hb above 11.5 g/dl"とターゲットが引き下げられた。ESA開始時期も、非透析患者は"ESA therapy not be initiated with Hb concentration >10.0 g/dl"、透析患者は"ESA therapy be used to avoid having the Hb concentration fall below 9.0 g/dl when the hemoglobin is between 9.0–10.0 g/dl"という。
さらに、ESA resistanceがあるように、慢性腎不全患者の貧血はmulti-factorialだ。uremic inhibitors of erythropoiesis(想像上だが)、赤血球の短寿命、ビタミンB12不足(透析で失われると考えられ、透析患者さんはnephrocapというビタミン剤を飲む)、それに何より鉄欠乏だ。
鉄欠乏の原因に、鉄喪失(透析で失われる、uremic platelet dysfunctionによる出血)、鉄吸収障害、鉄利用障害(reticulo-endothelial cell iron blockade)などがある。鉄利用障害があると、ferritinが高値でiron saturationが下がる(ferritinは急性炎症でも上がるが)。
鉄吸収・利用障害の原因は?と思っていたら2000年にhepcidinという分子が発見された。これは肝臓で作られ血中をめぐり、鉄トランスポータのferroportinを壊す。このトランスポータは十二指腸、マクロファージ、肝細胞などにみられ、hepcidinがあると鉄吸収・鉄利用ができなくなる。hepcidin/ferroportin axisに効く薬が動物実験レベルで研究中という。
[2015年5月追加]鉄欠乏性貧血のレビューがでたのを知った(NEJM 2015 372 1832)。鉄の吸収はHIF-2αにより腸管細胞の内腔側に表出されるduodenal divalent metal transporter 1 (DMT1)を通じて細胞内に入り、ferroporinによって細胞の外にでて身体をめぐる。そのためにはferroportinを壊すhepcidinが抑制されていなければならないが、hepcidinを抑制するものには次のようなものがあるという:
鉄が結合したtransferrinや肝内鉄量の減少
hepcidinのinhibitorであるtransmembrane protease, serine 6 (TMPRSS6)の上昇
hepcidinのactivatorであるbone morphologic protein 6 (BMP6)の減少
hepcidinを抑制するerythropoietin-stimulated erythropoiesisの増加