2016/06/21

Expand differential diagnoses 2

 ADTKDと言われても初耳だが、私が卒業してからKDIGOがADTKD consensus conferenceをひらいて遺伝性の尿細管萎縮と間質線維化(IFTA)で末期腎不全にいたる諸病をこう総称することにしていた(doi:10.1038/ki.2015.28)。

 尿管拡張がmicrocystに見えることからMCKDと呼ばれていた時期もあったが嚢胞腎とは違うので紛らわしいということになった。総称されるのUMOD、MUC1、REN、HNF1Bの遺伝子異常で、これらの遺伝子は遠位ネフロン(UMODはHenle上行脚、TAL)にある(HNF1Bは腎外にもあり、糖尿病の亜型MODY5をおこす)。多くの場合小児科でみつかるだろうが初発年齢、腎機能悪化速度に差があり孤発例もあるので成人外来にくるかもしれない。

 UMOD異常はNKCC2チャネルを阻害して体液量を減らし代償的に近位ネフロンでの尿酸再吸収を増やすと考えられており、FEuric acidが5%以下になるのが特徴だ。腎生検でIFTAのほかにTAL細胞内のUMODたんぱく貯留がみられる。

 MUC1はムチンをコードするユビキタスな遺伝子だが、遠位ネフロンでは糸球体内腔をコーティングしている。この変異でできる異常たんぱくMUC1-fsが細胞内にたまるが他の臓器で異常をきたさないのがなぜかは分かっていない。

 RENはプレプロレニンをコードしており変異があるとレニン産生細胞が異常レニンがたまることでアポトーシスを起こす。これがIFTAを起こすしくみはまだわかっていない。

 HNF1Bは転写因子で肝、膵、腎などで諸遺伝子発現を調節しているが腎ではUMODの発現に関与している。動物実験でHGFによる尿細管発生をSOCS3遺伝子を介して抑制すると考えられている。

 また膵発生では内分泌細胞の前駆となるNGN-3遺伝子陽性細胞がHNF1B陽性の原始膵管細胞の周囲に並ぶが、HNF6発現を欠損させると膵管細胞でHNF1Bが発現されなくなり内分泌前駆細胞も並ばなくなるという。MODY5なのに普通の2型糖尿病として診断されることもあるから注意が必要だ。RCAD(renal cysts and diabetes syndrome)と呼ばれていたこともあり、腎嚢胞があればとくに。

 ただADTKDができて、今度は遺伝形式が違う嚢胞を主病変とする疾患があぶれた。Juvenile nephronophthisis(日本語ではネフロン癆;赤芽球癆、眼球癆、脊髄癆などもあるが共通した病気ではない)、Bardet-Biedl syndrome、Jorbert syndrome、Meckel-Grober syndrome(MKS)、Alstrom syndrome、Oral-facial-digital syndrome Type I(X-linked)などだ。

 しかしこれらは線毛に関係する遺伝子異常だとわかってきており、ADPKDとならびciliopathyと総称される(JASN 2009 20 23にもレビューあり、図;Jeune症候群は前稿に書いた)。ARPKDも原因遺伝子PKHD1の主要な遺伝子産物fibrocystin/polyductinがPKDの遺伝子産物polycystin 2と相互作用する。

 多発性結節症コンプレックス(TSC)は9番染色体にあるTSC1、TSC2遺伝子の異常でmTOC1が活性化されるが、TSC2とPKD1は隣同士なので大きなデリーションでは2つが抜けてTSC2/PKD1 contiguous gene syndrome(PKDTS)を起こす。




 これでもあぶれるのはvon Hippel Lindau病、medullary sponge kidney(MSK)くらいか。MSKは比較的有病率が多く、Beckwith-Wiederman症候群(巨舌、腹壁欠損、過成長)、Ehlers-Danlos症候群、Marfan症候群との関係があるが原因はいまだ不詳(尿管芽と後腎組織の相互作用異常が示唆されている)。

 Ca結石患者の20%にみられるともいうが、無症状で診断されていない例も多い。腎髄質の点状石灰化、IVPで腎乳頭に「花束」「刷毛」と言われる特徴的な像がみられる。問題は石と感染で、石にはクエン酸Kなど、感染はとくにurea-splittingな菌に注意が必要で「aggressiveに治療」とある。ただしこれらが守れれば腎機能低下をおこさないこともできる疾患だ。

[2016年6月追加]遺伝性間質性腎炎に、karyomegalic interstitial nephritis(核巨大化間質性腎炎)がある。ネフロン癆に似ているが、原因遺伝子FAN1はDNA damage response pathwayに関係する。これがないとinterstrand cross-linkの修復ができず(Nat Genet 2012 44 910)、その結果ciliopathy的なフェノタイプになるのかもしれない。たいてい20-40代くらいの兄妹で緩徐に進行する腎障害で発症する報告が多いが、常染色体劣性遺伝とされる。Lancetにも知っておこう的な記事が載っている(Lancet 2013 382 2093)。

[2018年12月追加]Nature Communicationsに発表された研究によれば(DOI: 10.1038/s41467-018-07260-4)、CKD患者コホートのGWASで引っかかる100以上の遺伝子多型(CKD-defining trait)のうち、3つでGFR低下との因果関係が証明された。そして、その代表的なものが上記のMUC1だった(なお他はNAT8BとCASP9だった)。

 MUC1の多型rs4072037は、MUC1遺伝子が転写されたあとのスプライシングパターンを変え、結果MUC1たんぱく質のN末端で9アミノ残基が失われるらしい(下図dからe、欠損部分はf、論文より)。




 ささいな違いだが、MUC1は腎にとって重要な分子なので、何か意味があるのだろう。そしてどう腎機能低下に関わるかは、今頃「よーいドン!」で各国研究機関が調べている。なおMUC1といえば日本で発見された肺臓疾患マーカー(肺がんにも応用されている)KL6の標的抗原でもあり、わが国からの研究成果にも期待したい。