2016/06/02

Intradialytic hypertension

 透析中に血圧が上がる患者さんは結構いる。透析低血圧は透析困難症とも呼ばれさまざまな対策がなされるのに対し、透析高血圧(または透析中高血圧;正式な医学用語は知らないが英語はinTRAdialytic hypertension)はそこまで注目されていないというか、Handbook of Dialysis(5e、2015年、John T. Daugirdas他)の透析中合併症にも含まれていない。Dry weightが多いとか交感神経系が亢進するとかは聞くし、透析前の降圧薬を増やしたりすることもあるが、きちんと調べたことはなかった。

 この分野で研究を続けてきたのはDr. Jula Inrigで、彼女がCLIMBスタディ、USRDS Dialysis Morbidity and Mortality Waves II cohortの分析で透析高血圧が心血管系リスク因子であることを示した。で、この頃からすでにその原因に体液過剰、透析液−血液Na濃度勾配、交感神経系の亢進、endothelin-1の増加(とNO産生の減少)、renin-angiotensin系の亢進、降圧薬の透析液への喪失、ESAなどが原因に考えられていた。

 で、"less-recognized cardiovascular complication of hemodialysis"、"it's time to act"などという論文が出ていた(AJKD 2010 55 580、Nephron Clin Pract 2010 115 c182)。透析高血圧じたいはよく知られているが、その定義も曖昧(研究では透析前後でsBPが10mmHg以上あがることが何度も続く、などとされその割合は約10%)で、2010年頃から減ってきたか増えているかもわからない。レビューが毎年(Curr Hypertens Rev 2014 10 171、Hypertension 2015 66 456、Blood Purif 2016 41 188)でているからホットトピックなのかもしれない。

 書いてあるのは、当初は透析高血圧は家庭血圧とは独立したリスク因子と考えられていたが、その後でたコホート研究や24時間、44時間(透析が4時間なので48-4)血圧モニタリングをつかったスタディでは透析高血圧じたいのadded hazard riskは消えて、家庭血圧が問題とわかった。いまでは透析高血圧は背景にある高血圧が透析をきっかけに(ちょっとちがうが白衣高血圧のように)悪化する現象と考えられている。

 体液過剰ではDRIPスタディが引用されdry weightをきちんと下げよう、とされ透析液−血液Na濃度勾配では透析液Na濃度を患者Na濃度−5mEq/lと+5mEq/lに設定したら低いほうが血圧が下がったスタディが紹介されている。内皮細胞障害、動脈硬化(aortic pulse wave velocity上昇)、交感神経系亢進、endothelin-1、renin-angiotensin system亢進は相互リンクして論じられ、α/βブロッカー(とくにβ、あるいはcarvedilol)、ACEI/ARBを使ってはどうかと言っている。

 そりゃそうだと思うが、意外とβブロッカーが入っていない患者さんは多い。βブロッカー(atenolol)とACEI(lisinopril)で心肥大のある高血圧透析患者を降圧すると後者で圧倒的にイベントが発生し中止になったHDPALスタディもあるし、βブロッカーはACEI内服の心不全においてbackground sympathetic nerve dischargeを減らさずlow- and high-frequency harmonic oscillations in sympathetic nerve activityを回復する(ほらやっぱり神経の話は難しい…とにかくいいことらしい)のでもっと使っていいのかもしれない。昔は血管拡張薬のminoxidilが使われたがいまはこれは育毛剤だ(海外でRogain®、国内でリアップ®)。

 Direct renin inhibitor(aliskiren)は使いにくいが認可はされているし効果もある。Sympathetic renal denervationは難治高血圧透析患者で効果を示した小さなスタディがあるが、SYMPLICITY HTN-3、SYMPLICITY HTN-3 Japanで有意な効果が出なかった。理論上は効果があるはずなので、シャム群にHawthorne効果があったとか、しっかり焼灼できていない(安全だったのはなによりだが)とかいろいろ言われている。別の会社がEnligHTN(図、次世代多電極デバイス)を治験中だ。Endothelin-1 antagonists(-entans、Bosentan®など)はいまのところ肺高血圧以外の高血圧には使われない(体液貯留が起こる;余談だが糖尿病性腎症の進行予防にatrasentanを用いたSONARスタディが組まれている)。

 透析中に降圧薬が喪失されることについてはβブロッカー(とくにatenolol、metoprolol;carvedilolは失われない)、ACEI(lisinoprilが50%、fosinoprilは失われない、ほかは30%程度)で注意が必要だが、ARB、CCB、clonidine、hydralazineはほぼ残るのであまり日本では関係ないかもしれない。ESAは静注後30分から3時間くらいMAP 20mmHg程度の高血圧を起こすとされ、透析高血圧の場合は透析後に打つのがよい(それがルーチンだと思うが)。透析液温度、透析液K、透析液Ca濃度も影響する。