2016/06/09

ECB

 Brexit referendum(英国のEU離脱を問う国民投票)が今月23日に迫った。Euroscepticと呼ばれるEU反対派は、肥大した官僚組織になって身動きが取れず各国の主権をおびやかすBrussel(EU本部)が嫌いなのであって大陸ヨーロッパは好きだと強調しているが、EUは脱退するとその後の貿易等の条件をEUが一方的に決められるようになっているので、たとえるなら離婚しても条件は相手しだいというわけで経済への悪影響などが心配される。

 で、今日のお話はECBだがEuropean Central Bank(欧州中央銀行)のことではなくendocannabinoid system(内因性カナビノイド系)だ。大麻の成分THCが発見されてから、体内にも内因性カナビノイドがあることがわかりanandamide、2-arachinodoylglycerol(2-AG)などがよく研究されている。受容体にはGたんぱく受容体のCB1とCB2があって、中枢神経系に多いが末梢組織にもひろく分布し、また前者はpro-inflammatory、pro-fibroticで後者はそれに拮抗することがわかっている(Br J Pharmacol 2016 173 1116)。

 ECB系で知られているのはCB1拮抗薬のrimonabantで、これは抗肥満薬、禁煙薬として開発されたがオピオイドμ受容体も抑えるのでうつ、自殺などの副作用が強く使われていない。まあECB系をいじるのは麻薬取締法すれすれなので、多くの合成カンナビノイドはいわゆる「脱法ドラッグ」だ。

 しかし体内にECB系があって生理作用を有しているのはたしかで、糖尿病にも関係がある。食事摂取が増えるとECB系が亢進しエネルギー消費の低下や脂肪産生などを起こしてインスリン抵抗性と肥満に寄与するだけでなく、膵に浸潤したマクロファージのNlrp3-ASC inflammasomeを介してβ細胞死を起こすと考えられている。脳血管関門を通過しない末梢CB1拮抗薬AM6545、JD5037などが開発中だ。

 糖尿病性腎症にもECB系の関与が示されている。糖尿病性腎症になると足細胞のCB1/CB2比が逆転し炎症に傾き、内因性CB2 agonistの2-AG欠乏にもなる。そこでCB1拮抗薬のAM251やCB2 agonistのAM1241を動物モデルに投与してたんぱく尿などが改善し、AGII/NADPH活性の低下によるとみられる活性酸素産生の抑制やサイトカインの減少がみられたという報告がある。いずれにせよ、実用にはオピオイドμ受容体に関与しない選択的末梢ECB受容体拮抗薬でなければならないが。マウスもうつになるのだろうか(なる、実験されている)。