2020/10/08

PHP関連疾患 前編

 「腎臓内科医たるもの、全身を診るべし!」とよく言われる。実際にはそんな大層な心がけではなく、「(診断がつかないので)何かヒントはないか・・?」と診察している筆者であるが、診察から得られる情報は多い。

 なかでも手先・足先は、橈骨動脈の拍動左右差から鎖骨下動脈狭窄が見つかったり、病歴で疑えなかったコレステロール結晶塞栓が見つかったりするので、忙しくても外せない(こちらも参照)。

 しかし、せっかく見つけても診断を知らないと素通りしてしまう。たとえば、中足骨や中手骨の短縮を見つけても、偽性副甲状腺機能低下症(pseudohypoparathyroidism、PHP)関連疾患を知らなければ疑えない。

 そこで今回、自戒も込めてPHP関連疾患を簡単に紹介する。なお詳細はレビュー(日内会誌 2002 91 197)や国際コンセンサス・ステートメント(Nat Rev Endocrinol 2018 14 476)も参照されたい。

 
1. PTH抵抗性とAHO徴候


 PTH抵抗性とは、PTHが分泌されているのにPTHの標的細胞が働かないことを言う。そのため血中カルシウム濃度は(骨吸収の低下、VitD活性化障害による吸収低下)などにより低下し、血中リン濃度は(尿中排泄の低下などで)上昇する。

 いっぽう、AHO(Albright's Hereditary Osteodystrophy)は、骨格・外見(中足骨・中手骨短縮、低身長、ずんぐりした体型(stocky build)、丸顔、異所性骨化、肥満など)の身体的な特徴を示す言葉である。「AHO徴候」ともいわれる。

 これらの2つの有無によって、PHPと名のつく5疾患は以下のように分類できる。




 PTH抵抗性とAHO徴候のどちらもあるのは、PHPIa型・PHPIc型。PTH抵抗性はあるがAHO徴候がないのは、PHPIb型・II型。そして、PTH抵抗性がないがAHO徴候のあるものに、PPHP(pseudo-pseudohypoparathyroidism、偽性偽性副甲状腺機能低下症)がある。

 注:指の短縮は2q37欠失症候群(AHO-like syndromeとも)、Turner症候群、TRPS1・HOXD13・PTHLH遺伝子異常などさまざまな疾患でみられる。また皮下骨化はACVR1・FGF23・GALNT3遺伝子異常などだけでなく、外傷や尋常性ざ瘡などでも見られる。


2. PTH-PTHrPシグナリング


 PTH(PTHrP)は、尿細管細胞であれ骨芽細胞であれ、G蛋白共役受容体ファミリーBに属する受容体PTH1Rに結合し、G蛋白を介して作用する(下図はJ Mol Endocrinol 2017 58 R203より)。




 なかでも中心的な役割を果たしている(というか、もっともよく調べられている)のが、G蛋白のアルファサブユニットの一つ、Gsαである。PTH刺激をうけたGsα蛋白はアデニルシクラーゼを活性化し細胞内のcAMPを増やす。

 すると、cAMPがホスホキナーゼA(PKA)のRサブユニットに結合し、酵素活性を持つCサブユニットを解放する。それにより、各種反応がはじまり遺伝子転写・発現といった標的細胞の作用が起きる(図はNat Rev Endocrinol 2018 14 476)。




 PTH抵抗性は、このシグナルが伝わらないために起きると考えられている。すなわち、IaはGsα蛋白をコードするGNAS遺伝子の異常、Ib型はGNAS遺伝子プロモーター領域の異常、Ic型はIa型とおなじ表現型だがGNAS遺伝子異常のないもの(未同定)、II型はcAMP産生よりも下流の遺伝子異常(未同定)である。
 
 では、PTA抵抗性のないPPHPはどうかというと、なんとこちらもGNAS遺伝子異常なのである。どういうことか?それを知るには、下記の「ゲノム・インプリンティング」という概念を知らなければならない。

 つづく。