2020/04/10

PDことはじめ

 新年度、読者の中には、初めて腹膜透析(PD)患者さんを診療することになった方もおられるかもしれない。しかし、PDのモードはアルファベットの羅列なので、それだけみても何が何だか分からない(写真は、アルファベットスープ)。




 そこで、順に説明を試みる。


1. CAPD(持続歩行腹膜透析、continuous ambulatory peritoneal dialysis)・・何の略かを知っても本質がわかりにくいが、結局これは「透析液の注液・排液をすべて手動でやる」ということである。手動とは、「患者が自分で、起きている間に」行われる。




 注液・排液操作を自分でするのは大変なようだが、全自動に比べて時間の融通が効く面もある。また非常時に備える意味でも、どの患者も手動操作ができることが望ましい(導入時はCAPDから始める)。
 
2. APD(自動腹膜透析、automated peritoneal dialysis)・・自動で注液・排液をするサイクラーを用いる場合は、すべてこれになる。その中に、NPD・CCPD・TPDなどの各種モードがある。

 A. NPD(夜間腹膜透析、nocturnal peritoneal dialysis)・・注液・排液を夜間に行うモード。朝に最後の排液をしたら、注液はしないので、日中は「からっぽ」。身体が軽いので、仕事や作業はしやすい。



 
 B. CCPD(持続サイクル腹膜透析、continuous cyclic peritoneal dialysis)・・朝に最後の排液をした後、日中も透析液をいれておくこと。夜間だけでは透析効率や除水が不十分になった場合におこなわれる。

 起きてから寝るまでずっといれておく場合と、日中に一度(手動で)排液・注液する場合があり、それぞれ「CCPD I」「CCPD II」と呼ばれることもある。






 また、入れておく透析液がBaxter社のエクストラニール®(イコデキストラン7.5%)の場合には、エクストラのEを取って「ECPD」とも呼ばれる。同社は後述するようにPDのパイオニアなので、このような「特権」も許されるのだろう。


 C. TPD(タイダル腹膜透析)・・タイダルといえば「潮の満ち引き」だが、これは自動の排液時に少し透析液を残しておくこと。腹腔内がからっぽにならないので、排液困難とそれによるアラーム(で夜中に起こされる苦しみ)を減らす利点がある。




 お役に立てれば幸いである。


 最後に、「どうしても、CAPDの命名が納得行かない!」と思った方のために、以下も紹介する(参考文献:Steven Guest先生著、"Handbook of Peritoneal Dialysis")。

 CAPDは、1977年に米国のジャック・モンクリフ(Jack Moncrief)先生、ロバート・ポポヴィッチ(Robert Popovich)博士、カール・ノルフ(Karl Nolph)先生が命名した(Ann Intern Med. 1978 88 449)。

 なぜ彼らが「持続・歩行」のPDと命名したかというと、それまでは持続も歩行もできなかったからだ。

 留置カテーテルが進化するまで、PDは血液透析の単回穿刺のように、医師が透析ごとカテーテルを挿入して間欠的に行っていた。また、透析液のボトル・カテーテルとの結合なども未熟で、患者が自分で交換などできなかった。

 そんな1970年頃、モンクリフ先生はテキサス州オースティンで血液透析を主に行っていた。しかしある患者(Peter Pilcherさんと公表されている)の内シャントが血栓閉塞し、7度のバスキュラーアクセス再作成も失敗した。

 そこで先生は患者に、当時(間欠的に院内で行う)PDを行っていたダラスに行くよう薦めたが、患者は拒否。このままでは患者さんが死んでしまうと危惧した先生は、テキサス州立大学オースティン校で腹膜生理学などを研究していたポポビッチ博士に連絡する。

 そして彼らがカテーテル・チュービング・透析液の貯留時間と交換回数などを工夫して開発したのが、CAPDシステムだった。これにより患者は自宅で自分で注・排液を行い、貯留中は歩行し、夜間も貯留しておくことで持続透析することが可能になった(患者はのちに腎移植を受けた)。

 その後研究と治験を重ね、ミズーリ大学のカール・ノルフ先生ともコラボし、1977年11月の米国腎臓学会に成果を発表。1978年にFDAの認可がおり、1979年にBaxter社が商品化して上市に至った。


 一人の患者との出会いが医師の人生を変え、世界を変えたわけだ。患者を診療できるだけありがたい今日この頃、一期一会で臨みたいものである。


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