2020/04/08

微小変化型ネフローゼのAKI

 ステロイドが著効することが多く、おそらくステロイドでなくても治療できるであろう(こちらも参照)微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change disease, MCD)。しかし、起こると厄介なのがAKIだ。

 AKIは成人MCDの約30%に診られるとされ(日本のデータでよく引用されるのはNephrology Carlton 2015 21 887)、AKIのある群はない群に比べて予後が悪く、寛解にいたるまでの期間も長い。

 なぜMCDはAKIになりやすいのか?よく聴かれるのは、糸球体のお話だ。

 たとえば、内皮側とボウマン嚢側の膠質浸透圧差が低下すれば、糸球体のろ過圧が低下してGFRは下がる。また、足突起のeffacementによってスリット頻度が減れば、基底膜の「抜け」が悪くなるとも言われる(図は、JCI 1994 94 1187を改変)。

 


 しかしAKIとなると、話は糸球体だけで終らない。そこで、「腎前性」「腎後性」ならぬ、「糸球体前」と「糸球体後」にわけて考えてみよう。

 「糸球体前」には、血行動態や血管病変が挙げられる。血行動態に影響するリスク因子としては、利尿薬使用・NSAIDs使用・造影剤使用などが挙げられる。また、血管病変を反映してか、高齢者や高血圧既往のある群ではAKIのリスクが高い。腎生検で動脈硝子化などが診られる群でも同様だ。

 なお、低Alb血症で膠質浸透圧が保てず有効動脈血液流量が減ることでAKIや代償的なRAA系の亢進・Na再吸収の亢進が起きる、という「アンダーフィリング」仮説は、なんとなく説得力があるものの、現在では疑問視されている(KI 2018 94 861)。

 その理由として、ネフローゼでは血管内だけでなく間質の膠質浸透圧もさがる(Nephron 1985 40 391)、リンパ潅流が亢進して結果的に血管内容量が維持される、AKI合併例は非合併例より血圧が高い、ステロイド使用後はAlb値が回復するより早く尿が出始める、などが挙げられている。

 いっぽう「糸球体後」とは、主に尿細管のことである。

 「微小変化」という呼称に反して、MCDの尿細管の変化は実に多彩だ。尿細管細胞内の空胞・硝子滴形成、微絨毛の消失、尿細管内腔の円柱形成、糸球体の肥大と増殖(Nephrol Dial Transplant 1995 10 2212)などは、臨床的にAKIのない例にも観察される。

 さらに、AKIのMCD患者では、多くの場合に急性尿細管壊死(ATN)が観察される。詳しく観察すると、病変は糸球体に近い近位尿細管に目立つようだ(図はBMC Nephrol 2017 18 339)。


出典はこちら
左は尿細管傷害マーカーvimentinの染色
右は細胞増殖マーカーKi67の染色
gは糸球体、+は遠位尿細管

 近位尿細管には糸球体から漏れてきたアルブミンを再吸収する働きがあるので(こちらも参照)、大量の蛋白尿が糸球体から流れてくると疲弊してしまうのかもしれない。疫学的にも、大量の蛋白尿と著明な低Alb血症はAKIのリスク因子だ。
 
 また近年、ATN合併例は非合併例にくらべ、著明にエンドセリン1の発現が亢進している(血管・糸球体・尿細管)という報告がでた(AJKD 2005 45 818)。負荷のかかった尿細管に、エンドセリン1による虚血が重なることで、AKIになりやすいのかもしれない。

 なお、尿細管が間質浮腫によりつぶれる「腎浮腫(nephrosarca)」仮説も、そのような像が観察されることは確かにあるようだが、観察されないことも多く、どこまでAKIに関与しているかは疑問視されている(KI 2018 94 861)。

 まとめると、以下の表のようになる(上段は病態、下段はリスク因子)。


他に考慮すべきこと:
じつは別のネフローゼだった、腎静脈血栓、薬剤性腎炎など

 
 現状は、前掲KI論文著者が言うように「ステロイドが効くまで時間を稼ぐ」しかないが、AKIを合併したMCDは寛解までに時間がかかり、稀だが透析依存になることもある。今後「尿細管保護薬」などの開発が進み、尿細管のケアが充実すればなと思う。



出典はこちら