2020/04/30

PDによるAKI治療

 AKIの腎代替療法は、「いつ始めるか」は議論になっても「どのモダリティーか」が議論されることはほとんどない(こちらも参照)。しかし先週、米国腎臓学会のKidney360という雑誌に「COVID-19パンデミックがもたらす、米国でのPDによるAKI治療」という論文がでた(doi:10.34067/KID.0002152020)。

 米国も日本と同様、成人AKI治療でPDすることはまずない。しかし、パンデミックによりHD機・CVVHDF機が不足し、ニューヨーク市などではAKIの治療にPDが使用され始めているという。信じられない事態だが、現実だ。

 論文は「(万一に備えて)PDによるAKI治療をおさらいしましょう」と言う。そこで、その効果・禁忌・アクセス・処方について以下にまとめる(参考文献は前掲論文と、国際PD学会のガイドライン;Perit Dial Int 2014 34 494)。


1. 効果


 PDによるAKI治療には、よいイメージをお持ちでない方も多いだろう。たとえば、マラリア患者と敗血症患者あわせて70例のAKIを対象にPDとHDFを比較したベトナムのRCTは、PD群で有意に死亡が高く早期中止となった(NEJM 2002 347 895)。しかし、このスタディはPD治療が不十分・不適切だったようだ。

 その後、透析量を増やし、プラスチックのカテーテルを使い、バッグ交換もサイクラーにしたスタディがいくつも行われた。その結果、2017年のCochraneレビューは「総死亡と腎機能回復にほとんど有意差なし(確証は中等度)」と結論している(doi:10.1002/14651858.CD011457.pub2)。

 とはいえ、AKI治療にPDが選ばれる最大の理由は、コストの安さと「過酷な環境(austere environment)」での威力だ。極論すれば、水道も電気も必要ない。またCOVID19パンデミックにおいては、医療スタッフと患者の接触を減らせるとも期待されている。
 

2. 禁忌


 PDによるAKI治療の絶対・相対禁忌には以下が挙げられる。

腹膜への侵襲
腹膜炎
腸管の障害
重度の高カリウム血症
薬物中毒
重度の呼吸不全・肺水腫
腹水・腹腔内圧上昇
腹臥位
ショック肝・乳酸アシドーシス
(重炭酸イオンのPD液なら可)

 懸念を挙げると、「重度の高カリウム血症」や「薬物中毒」は溶質除去の速度と量。「重度の呼吸不全・肺水腫」は、除水速度・量と、横隔膜の運動制限。「腹腔内圧上昇」は腹腔コンパートメント症候群などだ。
 
 COVID19のAKIで最も気になるのは「重度呼吸不全・肺水腫」だろう。PD液を2L貯留しても肺コンプライアンスなどの指標に有意差のなかったスタディはあるが(Clin Exp Nephrol 2018 22 1420、ただし肺炎は全患者の約20%)、呼吸管理に注意が必要だ。またCOVID19肺炎で患者を腹臥位にした場合も、PDは現実的ではないだろう。


3. アクセス


 AKIのPDといえば、昔は金属棒のようなカテーテルが使われていた(読者の中に、使っていた方もおられるかもしれない)。しかし現在は、AKIでも末期腎不全と同様に、柔らかくカフが2個ついたカテーテルが用いられる。

 ただ、緊急性と患者移動の困難さから、挿入はベッドサイドが多いようだ。腹腔に穿刺した針からガイドワイヤーを留置し、ダイレイターの外筒を「剥きながら(peeling-away)」カテーテルを挿入する。腸管損傷リスクもあるので、透視・エコーは使いたい(使ったテキサスの動画、使わないタイの動画も参照)。

 挿入後すぐに使うので、PD液リークはリスクだ。これについては、結局「うまい人が慣れた方法で(local expertise and operator experience)」やることが大切とされ、施設や報告により発症率はさまざまだ。傍正中切開・タバコ縫合(腹膜・腹直筋後鞘・前鞘の3箇所にかける方法はSemin Dial 2003 4 346)・少量PD液から開始するなどの工夫もある。


4. 処方


 AKI患者で異化が亢進していることや、PDはHDに比べ溶質除去が甘くなりがちなことから、透析量は末期腎不全より多い。PDの有効性を示したブラジルのランドマークRCT(Perit Dial Int 2007 27 277)は1日Kt/V 0.6(weekly Kt/V 4.2、こちらも参照)だったが、現在のガイドラインは1日Kt/V 0.3(weekly Kt/V 2.1)を推奨している。

 以下に、前掲Kidney360論文のサンプルを紹介する(ICU患者、APD、体重70kg以下の場合)。



 
 交換回数が多いので大量のアルブミンが喪失され、その量は前掲ブラジルRCTで1日21グラムもあった。信じられないことに低アルブミン血症の有意差は見られなかったが、別のブラジルRCTでは蛋白バランスと死亡率に負の相関がみられ(CJASN 2012 7 887)、ISPDガイドラインは蛋白摂取を1.2g/kg/dにするなどの工夫を推奨している。


★ ☆ ★


 いかがであろうか?正直、AKIにPDと言われても困るのではないだろうか。モダリティーとしてHD・CVVHDFより優れている点はほとんどないし、なにより経験がなさすぎる(論文はfamiliarityの重要性を強調するが、そんなものがある人はまずいないだろう)。

 しかし、とにかくやらないとCOVID19患者をAKIで死亡させてしまうような限界状況が、現に起きている地域がある。そしてその時、「知りません」では済まされないからこそ、急遽この論文がでたのだろう。

 そうした状況にならないことを願うのはもちろんだが、今からAKIに限らずPD一般に少しでもfamiliarityを持っておくことに、損はないだろう。