いずれも、レーザー・マイクロディセクションとマス・スペクトロメトリーをもつメイヨーのグループから発表された。このグループは、同じ方法で腎に沈着するアミロイドの分析にも成功している(KI 2012 82 226)。打出の小槌みたいだ。
出典はこちら |
EXT1とEXT2は、PLA2R陰性の膜性腎症9%(21/224例)で検出された。PLA2R陽性の膜性腎症を含むコントロール群ではされなかった。検出例の多くは抗核抗体やC1q染色が陽性で、じっさいV型のループス腎炎標本のじつに44%(8/18例)でEXT1・EXT2が検出された(III/IVとVの混合型ではされず;SN/RPS分類はこちらも参照)。
EXT1・EXT2は糸球体基底膜のヘパリン硫酸の合成に関与するといわれるが、詳細な機能はまだわかっていない。実はこれをノックアウトしてもネフローゼにはならないし、検体がEXT・EXT2陽性の症例でも血中に抗EXT1・EXT2抗体は検出されなかった(沈着IgGのなかでは、IgG1が優位だった)。
それでも、原発性膜性腎症に「かくれV型ループス腎炎」がいる可能性が示されたし、V型ループス腎炎に固有の病態を解明するおおきな第一歩だ。そして病態理解がすすめば、疾患の再分類や治療の個別化にもつながるかもしれない。
自己免疫疾患で多い進歩の流れ |
つづいてのNELL-1は、PLA2R陰性例の23%(29/126例)に検出され、PLA2R陽性例を含むコントロールでは検出されなかった。沈着IgGはIgG1優位で、症例の血中には抗NELL-1抗体が検出された。なお欧州コホートでは5例中4例に悪性腫瘍がみつかったが、メイヨーの29例にはみられず、相関は一定していない。
NELL-1(下図は前掲論文)は骨芽細胞での働きが主に研究されてきた分子で、腎での働きは不明な部分が多い。しかし腎細胞も細胞外基質として発現できることは知られており(Mol Biotechnol 2012 51 58)、基底膜や足細胞のスリットなどで大事な役割を果たしているのかもしれない。
TSPN:トロンボスポンディン1様N末端 CC:コイルドコイル領域 VWC:vVFタイプC領域 E:EGF様領域 |
ここまでくるとまるで(抗ARS、Mi2、MDA5、TIF1抗体を測る)皮膚筋炎のようだ。今後、原発性膜性腎症が「クワッド・ネガティブ」などと表現されるようになるかは、まだ分からない。しかし、それに近い未来が待っているのかもしれない。抗原の種類は、変わるかもしれないが(日本人に多い未知の標的抗原だって、見つかるかもしれない)。
こちらを元に作成 |
[2021年4月16日追記]中国の原発性膜性腎症コホート832人について、PLA2R・THSD7A・NELL1抗原の糸球体免疫染色と、これらの抗原にたいする血中抗体を調べた結果がCJASNに発表された(doi:10.2215/CJN.11860720)。
まず、PLA2R陽性だったのは778人(94%)。PLA2R陰性・THSD7A陽性だったのは11人(1%)。PLA2R陰性・THSD7A陰性・NELL1陽性だったのは15人(2%)。そして、PLA2R・THSD7A・NELL1陰性のトリプル・ネガティブは28人(3%)だった。
NELL1のみ陽性の患者15人は、女性が11人(78%)で、他群の4割程度より多かった。平均年齢・Alb値・eGFRなどは他群と同程度。治療は4人がステロイド+シクロスポリン、4人がシクロスポリン単剤、2人がステロイド+シクロフォスファミドで、4人が完全寛解・11人が不完全寛解であった。
注目すべきはIgGサブクラスで、IgG1陽性は73%・IgG4陽性は80%であったが、IgG4が最も強陽性なのは6%にすぎなかった。また、原発性膜性腎症にはみられないとされるIgG2が20%で陽性、みられることもあるIgG3はまったくみられなかった。
こうした結果をうけて、著者らはNELL1陽性膜性腎症が二次性の可能性(ただし全例腫瘍はみられなかった)、エディトリアルはPLA2Rと別の病態生理(補体経路など)を推察している。
また、血中抗体が病勢に使えるPLA2Rと異なり、NELL1陽性膜性腎症15人のうち血中の抗NELL抗体が陽性だったのは2人だった。エディトリアルは抗体測定方法の問題や、症例のおおくが免疫抑制を受けていた影響などを推察している。