2017年5月14日日曜日

火星だより 1

 自由水クリアランスについては何度か紹介されている(ここここ)が、基本の考えは「腎臓は血液より濃縮した尿をだすとき自由水をため、希釈した尿をだすとき自由水を捨てている」ということだ。自由水クリアランスというのはどれだけ捨てているかという値だから、捨てている時にプラス、ためているときにマイナスになる(図はJASN 2008 19 1076より改変)。



 自由水クリアランスは尿と血液の濃度をくらべているので血液の値(浸透圧であれ電解質であれ)がないと測れない、はずである。それを尿の値だけで計算する考え方が、JCI5月号の論文(JCI 2017 127 1932)で用いられているようだ。

 この論文は3月にオンラインででたから、4月には日本腎臓学会のメーリングリストKidney Shareでも杉本俊郎先生が取り上げておられた。ニューズレターASN In The Loopにも、こないだでた。なおこの論文は、個人的には、火星への有人探査に備え健常男性を何百日も宇宙ステーションのような部屋(図)に隔離し生活させるデータを解析していることが興味深い。重力は、ある。



 実験結果でもっとも大事なもののひとつが、食塩6g/dの食事をしていた人が12g/dの食事にふやすと自由水クリアランスが減る、というものだ。しかし血中浸透圧への言及はひとつもない。どうやって計算したか?しらべると、Supplementに解説があった。

 ひとことで言うと、二つの状態の尿浸透圧を比較して、前より尿が希釈されていれば自由水クリアランスがプラス、濃縮されていればマイナスということだ。


 図左端のように溶質を1Lの尿に5粒の溶質を捨てていた人が、溶質をたくさん摂って8粒すてるのに、2Lの尿をつくったとする(その隣)。このとき尿浸透圧は、5粒/Lから8÷2Lで4粒/Lに希釈されている。ということは、5粒/Lの尿をだしていたときにくらべ自由水を捨てている。尿浸透圧が5粒/Lのままなら、8粒の溶質を捨てるのに8÷5で1.6Lしか尿はいらないはず。だから、2-1.6の0.4Lが自由水として捨てられた、つまり自由水クリアランスが0.4Lというわけだ。それを式にするとこうなる。


 食塩6g/dのときと12g/dのとき、尿量と尿中溶質量(Na、Kだけでなく尿素もつかうモデル)、そこから計算される尿浸透圧は以下のようであった。溶質は682mmolから872mmolに、食塩6g(NaとClで205mEq)に相当するだけ増えた。しかし尿量は1783mlから1814mlにしかふえておらず、浸透圧が431mmol/lから508mmol/lにまで高くなった。


 6g食のときと同じ尿浸透圧で12g食の溶質を捨てるには、872÷431で2.02Lの尿が必要。なのに1.81Lの尿しかつくらなかったということは、2.02-1.81で0.21L自由水をためこんだ、つまり自由水クリアランスがマイナスになる。

 …ほんとう、だろうか?

 参考文献に2005年版のOxford Textbook of Clinical Nephrologyが載せてあるが、2016年版のwater homeostasisの章には記載が見られない。自由水排泄をきめるのは溶質量とADHで、溶質量の変化よりADHの変化がより大きく働く(図右、バートン・ローズ先生の教科書より)。


 だから、この方法がADHを無視するというかなりざっくりな仮定をしていることは、知っておいていい。実際、著者も論文の最後に認めている。それでも、膨大な尿データから言えることはたくさんあるはず。著者グループはこれまでもこの方法で論文をたくさん書いている(Cell metab 2013 17 125、Hypertension 2015 66 850)から、仮定を受け入れて読み進めてみよう。つづく。