火星探査訓練の被験者を対象にしたデータが2013年アトランタのASNのKidney Weekで口頭発表されているときには、センセーションだけで何のことだか分からなかった。いま論文を読み返すと(Cell metab 2013 17 125)、JCIの論文がこれを発展させたものだと分かる。
このときすでに塩分12g/d食から6g/d食にするとアルドステロン排泄量(UAldoV)があがることと、コルチゾール排泄量(UFFV)とコルチゾン排泄量(UFEV)がさがることは発表されていた。コルチゾン/コルチゾール比(コルチゾールを分解する11β-HSD2活性に相関)はあがっていた。
さらにこの論文でわかったのが、同じ塩の量をとっていてもNa排泄量(UNaV)、UAldoV、UFFV、UFEVが日によってばらつきがあることだ。
何日も何日も調べたからこそわかる結果と言える。なんとなく4つのグラフはおたがい関係しているようにも思えるが、これだけではわからない。しかしこれらのばらつきを分析する方法が、ある。まずパワースペクトラル濃度をみると、UNaVとUAldoVには6日周期(赤、緑のもっとも大きなピーク)、UFFVとUFEVには約1ヶ月周期(青、黄色の左端のピーク)の波があり、ほかにも3、5、15などいくつかの波がある(グラフ中の数字)ことがわかった。
どうしてこんなリズムがあるのかはわからない。6日周期は、被験者が6日にいちど夜勤をしていたことと関係がありそうだ(実際夜勤データを重ね合わせると、夜勤日のUNaVはひくくUAldoVは高かった…夜勤の夜食は塩分すくなめがいいのだろうか??写真)。ほかの周期は、わからない。
さらにふたつのグラフが似ているかどうかをしらべる相互相関分析をおこなうと、UAldoVとUNaVは負に相関(UAldoVが増えるとUNaVは減る、つまりNa排泄抑制)、UFFV・UFEVとUNaVは正に相関(Na排泄促進)することがわかった。図中心のディップとピークがそれにあたる。
「定常状態」では摂取した塩分量と排泄する塩分量はおなじはずだが、諸行無常の世の中で「定常状態」なんてものは存在しなくて、実際にはおなじ塩分量を摂っていても寄せては返す波のようなホルモンバランスで排泄量は揺れうごく。しかも、RAA系のアルドステロンだけでなく、糖質コルチコイドも影響している。
…という延長にJCIの論文がある。JCIの論文では、おなじ食塩量を摂っていても日によってホルモン量(UAldoV、UCortisoneV)にばらつきがあることを利用して、ホルモンが多い日、中くらいの日、低い日の三つにわけた。
そして、6g/d食、9g/d食、12g/d食のときにホルモンが高い群と低い群では尿量、溶質の排泄量、尿浸透圧、自由水クリアランス、飲水量、体重などがどうちがうかを調べて、アルドステロンと糖質コルチコイドの関与を推察した。その結果をまとめたのがFigure 5なのだが、やや複雑なので次にする。つづく。