2018/06/13

CaSR組曲 4-5

4. TAL(ループ上行脚)
 
 TALではCaSRは基底膜側にある。で、よく知られているようにNKCC2とROMKを止めてNa再吸収という「波」を鎮め、波に乗ってカルシウムが細胞の脇から間質側へ打ち上げられるのを防ぐ(図はオンライン・ファーストのJASNから、doi: 10.1681/ASN.2017111155)。





 CaSRは、どのようにNKCC2とROMKを止めるのか?細胞内での仕組みとしては、ホスホリパーゼA2がROMKを止めるらしいことがわかっている(Am J Physiol 1997 273 F421)。ROMKを止めたら、NKCC2も止まる。なぜか?

 TALにおける「波」とはNKCC2からのNa+とCl-の流入を意味する。ならば、NKCC2はカリウムまで通さなくてもよさそうなものだ。しかし実際には、カリウムは調節役を果たしている。

 NKCC2から入ったカリウムはROMKから排出されて内腔側にリサイクルされるが、ROMKの阻害でそれが止まってしまえば内腔のK+が少なくなって、NKCC2は動かなくなるのだ。内腔K+がTALでのNaCl再吸収量を規定することは実験でも示されている(JASN 2001 12 1788)。

 なお、TALでのNa+、Cl-再吸収が障害される遺伝疾患をBartter症候群と総称するが、このCaSR遺伝子異常によるものをBartter 5型という(他の遺伝子についてはこちらも参照)。この場合、CaSRが恒常的に働いてしまうほうの異常(gain of function)であり、常染色体顕性(優性)遺伝だ。

 さらに、最近は細胞間にあるタイト・ジャンクションを形成するClaudinにも直接影響すると考えられている。Claudとはラテン語でlame(足が不自由な)、転じて「遅い」「止まる」という意味がある(写真は交響曲『海』でも有名なClaude Dubussyが載った20フラン札)。



 
 そのClaudin 14、16、19分子は互いにダイマーをつくり、それぞれが異なったカルシウム透過性(とマグネシウム透過性)をもっている。CaSR刺激は、このうちクローディン14遺伝子の転写を抑制することがわかっている。なお薬剤のなかではシクロスポリンもクローディン14を抑制する(JASN 2015 26 663)。

5. DCT(遠位尿細管)

 腎臓内科界の2018年10大ニュース、とまでは言わないが、腎生理のなかでは割とインパクトがあると思われる論文がこないだ出た。それが、「CaSRはWNK4-SPAK経路を通じてNCCを活性化する」というものだ(doi: 10.1681/ASN.2017111155)。

 NCCがヒラメの膀胱から発見されて(PNAS 1993 90 2749)25年になるが、現在ではNCCを調節する分子がだいぶん上流まで見つかっている。そのひとつがKLHL3-WNK-SPAK-NCCという系だ(詳細はこちらも参照)。

 また、いわゆるaldosterone paradoxと呼ばれる現象(アルドステロンは高K血症時にはK+排泄をしてNaCl再吸収はしないのに、体液不足時にはNaCl再吸収はするのにK排泄はしない)にもアンジオテンシンIIとWNK4が関わっていることが分かっている。

 さて、そのNCCがあるDCTで、CaSRは内腔側にある。CaSRが(Gqタンパク→PKC→KLHL3リン酸化によって、WNKが分解されにくくなり、結果SPAKを介して)NCCを活性化させるというのは、どういう意味があるのだろうか?

 ひとつ考えられるのは、高Ca血症を間質側で感知したTALでのさまざまな変化をDCTの内腔でキャッチし、ファイン・チューニングすることだ。たとえばTALではNaCl再吸収が抑制されるので、DCTでNCCを活性化して体液喪失を緩和しているのかもしれない。同様に、DCTでCaSRはカルシウムチャネルTRPV5のすぐ隣にあって、CaSRはTRPV5によるカルシウム再吸収を亢進させる(Cell Calcium 2009 45 331)。

 とはいえ、DCTのCaSRがナトリウム再吸収をどうしているかについてはまだ未確定な部分がおおい。

 基底膜側のNCX1(Ca2+を一個だす代わりにNa+を三個細胞に入れる)を刺激するとか、KCNJ10(基底膜側のNa+/K+-ATPaseで細胞内に入ったK+を間質側にリサイクルする)を抑制する(Am J Physiol 2007 292 F1073)とか、むしろナトリウム再吸収の抑制を示唆する知見もある。今後の論文にも注目したい。

 最後に、集合管でのCaSRについて説明する(図は企業の社会への責任を表すCorporate Social Responsibility、CSR)。