重曹とクエン酸、なんていうと、「お掃除のことかな?」と思うかもしれない(写真)が、今回はCKD、アシドーシスに対する重曹治療の研究で有名なグループからでたCJASNの最新論文(doi:10.2215/CJN.01830218)についてのお話だ。
論文は、60歳くらいでBMI30くらい、eGFRは30ml/min/1.73m2くらいでHCO3-濃度は20-24mmol/lのCKDコホート20名(CJASN 2013 8 714と同じ)について、重曹群とプラセボ群(クロスオーバー)で尿・血液の代謝産物パターンにどんな違いがあるかを調べた。
234の血中代謝産物と195の尿中代謝産物をスクリーンしたところ、厳格な(false discovery rateを20%とした)統計的有意差がみられたのはたった一つ、重曹群での尿中クエン酸(と、その異性体でクエン酸回路を構成するイソクエン酸)の増加だった。ほかのクエン酸回路の中間産物も、有意差はないが増加傾向であった。
「重曹を飲むとクエン酸回路がまわる」と聞いても、「風が吹くと桶屋が儲かる」みたいに、すぐには何のことか分からないかもしれない(図)。論文著者のディスカッションは、そこについてあまり考察していない。
重曹を飲むと、血中に入ったHCO3-は有機酸のH+を受け取る。こうしてできたH2CO3はすぐさま(水と)CO2となり赤血球に乗って肺から排泄される。いっぽう、H+を渡した有機酸陰イオン(これをorganic anion、OA-という)は尿中から排泄される(これが結石予防になっていることは以前に触れた)が、OA-のなかで代表的なものが、何のことはないクエン酸イオンである。
そう考えると、結局「重曹を飲むと尿中クエン酸がふえる」というのは「水を飲めば尿がでる」と言っているようなもので身も蓋もない。でもまあ、クエン酸イオンが腎臓の細胞に流入すると、その過程で細胞内のクエン酸回路は回りそうだし、回ればなにかいいこともあるかもしれない(論文著者も「DKD、non-DKDともにCKDではクエン酸回路が大事な役割をしているようだ」と書いている)。
重曹が健康にいい(腎臓だけでなく、骨はもちろん、最近は脳にも;CJASN 2018 13 596)仕組みが、こうしたさまざまな研究によって解明されれば、他の治療にもつながるかもしれない。いろんな代謝経路(図はクエン酸回路)を復習しながら、それに備えていたい。