1. 糸球体
存在自体に諸説あったものの、いまでは糸球体にCaSRがあることは確実視されており、足細胞とメサンギウム細胞でさまざまな病態に関わっていることが示唆されている。足細胞のCaSRをCaSRアナログで刺激すると糸球体ダメージが起こりにくくなる(Kidney Int 2011 80 483)。
いっぽうメサンギウム細胞のCaSRを刺激すると、糸球体傷害がおこる。その機序にはGqタンパクによる細胞内カルシウム移動、TRPC3やTRPC6が開くことによる細胞外からのカルシウム流入が考えられている(JCI 2015 125 1913)。
なおTRPCという名前は、最近の和雑誌にTRPC5が紹介された(日腎会誌 2018 60 526)こともあり、聞いたことがある人も多いかもしれない。TRPC5は細胞膜にあるRhoキナーゼRac1のシグナルを受けて足細胞破壊を起こす(ネフローゼとなる)。
電解質が糸球体疾患にも関与しているなんて、面白い。まさに、「すべての道は、電解質に通ず」だ(写真はローマ皇帝シーザー、Caesar)。
2. 傍糸球体装置
傍糸球体装置(JG)、T-Gフィードバックといわれても生理学の最初に学んだきり忘れているかもしれない(図はTGIF、Thank God it's Friday)。
目的論的にはGFRや体液量を維持する仕組みだ。具体的には糸球体でろ過された原尿の量や濃度を尿細管のマクラデンサが感知して、JG細胞によるレニン分泌を調節している。
カルシウムとレニン分泌については、「カルシウム・パラドクス」という現象が知られている(Am J Physiol Renal Physiol. 2010 298 F1)。これは、多くの分泌細胞でカルシウム濃度の上昇は分泌を促進するのに対して、JG細胞のレニン分泌はカルシウム濃度の上昇でむしろ抑制されることを指す。
CaSR刺激によるGqタンパク活性化、カルシウム支配下にあるアデニル酸シクラーゼADCY5、ADCY6によるcAMPプールの抑制などはわかっているが、どうしてカルシウムがレニンを抑制するのかは分かっていない。高カルシウム(CaSR刺激)が一般に尿細管内の結晶化を防ぐことを考えると、RAA系を抑制して尿細管再吸収を減らしたいのかもしれない。
3. 近位尿細管
近位尿細管のCaSRは、内腔側にある(Oxfordの教科書はsubapicalと書いているが)。現在わかっている働きとしては、PTHによるリン利尿の抑制、ビタミンD活性化の抑制、NHE3による酸排泄とNa再吸収の促進がある。
PTHはリンとナトリウムを再吸収するNPT2a、2cを抑制してリン排泄を促進しているが、CaSRはそれに拮抗する。といっても、両方が相殺するように働いては調節できないので、高リン摂取時などリンを排泄したいときにはPTHが勝ってCaSRは抑制される。
ビタミンD活性化(近位尿細管での1α水酸化)を抑制するのは、活性化ビタミンDによってカルシウム再吸収が増えてほしくない高カルシウム血症時を考えれば納得されるだろう。また、CaSRとPTHをダブル・ノックアウトしたマウスの実験からは、CaSRは活性化ビタミンDの作用そのものまで減弱させることが示されている(Am J Physiol Renal Physiol 2009 297 F720)。
なお、CaSRは内腔カルシウム濃度を感知しているが、濃度上昇の刺激によって活性化されるのはカルシウムチャネルではない。近位尿細管でカルシウムは受動的に細胞の脇をすり抜けるように打ち上げられるからだ(写真は波に打ち上げられた椰子の実)。
そして、その波にあたるのがNHE3刺激によるナトリウム再吸収といえる。その結果、近位尿細管ではカルシウム再吸収が促進されることになるが、最終的なカルシウムの出納は以遠ネフロンで調節される。
なお、NHE3はナトリウム再吸収と引き換えにH+(じっさいはNH4+とも)を放出するが、それは結果的に近位尿細管での大量のHCO3-再吸収(reclamation)の元になる。この辺のくだりは以前にもまとめたが、体液と酸塩基平衡の維持にCaSRが関わっているとは(実はPTHも関わっている;CaSRと拮抗的に)!話は一層面白くなる。
後編へつづく(図は2006年のピクサー映画、Cars)。