APOL1遺伝子が腎臓で何をしているかは、まだ誰も知らない。この変異は黒人にしか見られない(アジア人やヨーロッパ人には見られない)が、この変異があるとアフリカにいるTripanosoma bruceiという寄生虫のsub-species(T. brucei rhodensiense、T. brucei gambiense)に耐性ができると考えられている。それはこの遺伝子産物の末端にpore forming activityがあるためだとされている。
そもそもAPOL1が腎疾患に関連していると判ったのはつい昨年のことだ。それまでは、APOL1遺伝子座の近くにあるMYH(myosin heavy chain)が悪いと言われていたし、実際私が行った2010年のNKF meetingでもそのように説明されていたほどだ。イオンチャネルの専門の先生は、「この遺伝子産物がpore forming proteinというのは興味深い事実だ(何かのチャネルかもしれない、という意味)」と言っていた。
[2019年9月29日追記]じつは、以前から変異型APOL1はトリパノソーマ原虫のミトコンドリアやリソソームに孔をあけ、細胞を破裂させたりアポトーシス様の変化を起こしたりすることがわかっていた(図はJASN 2017 28 1008)。
そして今回、変異型APOL1を強制発現させたヒト尿細管細胞で、変異型APOL1は細胞質からミトコンドリアの内膜まで取り込まれ、そこで異常に重合していることがわかり、JASN電子版に載った(doi:10.1681/ASN.2019020114)。
しかし、結果はそれだけではない。
さらに異常APOL1は、ミトコンドリア内でmPTP(mitochondrial permeability transition pore)という複合体に取り込まれ、この「死の孔」を開くことがわかったのだ(図は前掲JASN電子版記事より)。
(RVはリスク・バリアントの略) |
mPTPが開くと、ミトコンドリアから細胞質へカルシウムイオンが流出し、さまざまな細胞死スイッチがオンになるのだという。つまり、上述のイオンチャンネル専門家の先生(筆者が人間としても師と仰ぐ、故・John B. Stokes先生)の予言は、当たっていたわけだ。
今回の論文は、「なぜ腎臓だけミトコンドリアが破裂するの?」、「じっさいのAPOL1変異患者さんでも、本当に同じことが起きているの?」といった質問には答えない。しかし、mPTPにたどり着いたことは、病態理解と治療の可能性につながる重要な成果だ。
というのも、、mPTPは(興味深いことに!)アルツハイマー病やパーキンソン氏病などの神経変性疾患でも、ニューロン死の責任分子とされているのだ。mPTPを開くサイクロフィリンDという分子が治療標的として研究されてもいる(CNS Neurol Disord Drug Targets 2015 14 654)。
それでか、著者もまた「足細胞もニューロンのように高度に分化しているので、異常に重合した高分子には弱いのかもしれない」などと自由に推論している(彼らが用いたのは尿細管細胞だが)。これまた、分化→統合→融合の一例であり、近い将来届くであろう吉報が楽しみだ。