腎臓内科にいる以上、患者さんが服用した全ての薬剤をチェックして、腎障害を起こすものがないか吟味しなければならない。NSAIDs(イブプロフェンのような鎮痛剤)、造影剤、抗生剤のような有名なものを見逃さないのは無論だが、腎機能が悪化したタイミングで始められた新しい薬剤があれば何でも、腎障害の副作用がないか確認する。
そこで最近目にするのが、「この薬はクレアチニンの尿細管排泄を促進するので血清クレアチニンが見掛け上高くなります」という表示だ。たとえばranolazine(商品名Ranexa、抗狭心症薬)、それにTS合剤(Bactrim、抗生剤)。そこで「この薬を飲んでから血清クレアチニン濃度が上がりました。これは間質性腎炎による腎障害ですか、それとも見掛け上高まっただけですか?」という議論になる。
この問いの答え次第で薬を飲むか飲まないか(他の薬に変えるか)が決まるわけで、ふたつを鑑別できることは臨床上重要だ。先生によれば、三つのポイントがあった。①クレアチニン排泄が増えても血清クレアチニンは健常人で0.1mg/dl程度しか上がらないはず。②クレアチニン排泄だけが問題ならBUN(尿素)は動かないはず。③クレアチニン排泄が問題なら、薬をやめて48時間以内にクレアチニン濃度は元に戻るはず。
しかしこれらにも限界がある。たとえば①は、もともと腎疾患があるような場合には血清クレアチニン上昇幅が大きいかもしれない。また②についても、急性期の場合は異化や栄養状態などによりBUN値も動きうる。そんなわけで鑑別は難しく、最終的な決定はリスクと利益を勘案して主治医(primary team)が判断することになる。