ST合剤といえば、Tのほう(トリメトプリム)にENaC阻害作用があって、スピロノラクトンやトリアムテレンなどのK保持性利尿薬と同様に高カリウム血症を起こすことはよく知られている(こちらも参照)。
しかし、同じように低ナトリウム血症も起こすことは、正直初めて知った。AJKDのティーチング・ケース(AJKD 2013 62 1188)に取り上げられたニューモシスチス肺炎に対する高用量ST(トリメトプリムとして15mg/kg/d)で発症した症例では、SIADHとして水分制限とトルバプタンで治療しても体液喪失になり、塩分負荷で改善していた。
そして、彼らが参考文献に挙げていた2つの論文はいずれも日本内科学会の英字誌、Internal Medicineからだった(図は同誌ウェブサイトより)!
一つ目(Intern Med 1995 34 96)はホジキン病の化学療法後に発症したニューモシスチス肺炎で12g/d(トリメトプリムとして960mg/d)のSTを用いて120未満mEq/lの低ナトリウム血症をきたし、380mmol/dのナトリウム(22g/dの食塩)を点滴し改善を認めている。STを予防量にして軽快した。
二つ目(Intern Med 2003 42 665)はニューモシスチス予防や尿路感染症などのため比較的少ない用量でSTを処方された53人について電解質異常(135mEq/l未満の低Na血症、5mEq/l以上の高K血症)の頻度を調べたもので、トリメトプリムとして平均68mg/d、82mg/d、315mg/dの三群にわけるとそれぞれ9、22、46%に異常がみられた。
どうして起きるのか直接には証明されていないが、AJKDの例も一つ目の日本の例もナトリウムの喪失が機序なことを十分に示唆しており、簡単に言えば「ENaCをおさえるからナトリウムが抜ける」ということらしい。これで、利尿薬について
サイアザイド 低ナトリウム血症
(SIADHないしPGトランスポーターの異常)
(こちらも参照)
フロセミド 高ナトリウム血症
(浸透圧勾配をなくし低張尿がでて水が抜ける)
バプタン 高ナトリウム血症
(集合管の水再吸収ができず水が抜ける)
ST合剤 低ナトリウム血症
(ENaCをおさえてナトリウムが抜ける)
という4通りのナトリウムへの影響がリストできるようになった。
では、やはりENaCに効くトリアムテレンや(わが国にはないが)アミロライドなども同様に低ナトリウム血症になるのだろうか?トリテレン®の添付文書には副作用に食欲不振などしかないが、「減塩療法を受けている患者」は低ナトリウム血症を起こしうるので慎重投与となっている。
筆者の受けたトレーニングでは、低ナトリウム血症は水の量とADHの効きぐあいで説明されてきた。なので、「ナトリウムが抜ける低ナトリウム血症」というトピックは苦手というか避けてきた感もある(クリアカットに説明できない感じがするのは、私だけだろうか・・)。
しかし実際にはCSW(脳疾患による塩類喪失)、RSW(腎疾患による塩類喪失)、副腎不全、MRHE(高齢者に起こる鉱質コルチコイド反応性の低ナトリウム血症)などについてもよく学び経験を積まなければならないと、じっさいにST合剤による低ナトリウム血症を経験して痛感した。