さらに、特許のほぼ切れたACE阻害薬・ARBにつづく「第三のRAA系阻害薬」として、MRAの新薬開発が進む。昨年は非ステロイド系MRAのエサキセレノンが上市され、フィネレノンも海外で治験中だ(FIDELIO-DKDはNCT02540993、FIGARO-DKDはNCT02545049)。
しかし、MRAもRAA系阻害薬である以上は、高カリウム血症と腎障害が問題になりえる(下表は、添付文書を元に筆者が作成)。
このうち、高カリウム血症について、新規カリウム吸着薬Patiromer(こちらも参照)の会社(こちらも参照)が「うちの薬をつかったら解決するのでは?」と考えて組まれたのが、AMBERスタディ。その第二相が昨年でていた(Lancet 2019 394 1540)ので、遅ればせながら報告する。
AMBERは欧州・英国・南アフリカ・米国など10カ国の他施設スタディだ。対象は、eGFRが25-45ml/min/1.73m2(平均35-36)で、カリウム濃度が4.3-5.1mEq/lの難治性高血圧患者が約300人(半数が女性、99%が白人)。うち約50%がβ遮断薬、約70%がカルシウム拮抗薬、ほぼ全例が利尿薬とACE阻害薬ないしARBを内服していた。重曹については、本文には記載がなかった。
スタディはこうした患者をパティロマー群とプラセボ群にランダム化し、スピロノラクトンが血圧・カリウム値・腎機能によって0-25-50mg/dに調節された(eGFRが4週以上にわたり30%以上ひくければ中止する、など)。また、パティロマー(またはプラセボ)はカリウム値によって0-6包/dに調節され(1包は8.4g)、平均使用量は1包/dであった。
プライマリ・エンドポイントは介入12週間後の「スピロノラクトン継続率」で、パティロマー群で有意に高く(86% v. 66%、p<0.0001)、50mg/d内服できていた割合も高かった(69% v. 51%、有意差の記載はなし)。予想されるように、プラセボ群では5.5mEq/l以上の高カリウム血症が多く(約60% v. 約30%、有意差の記載はなし)、スピロノラクトン中止理由の約2/3を占めていた。
エンドポイントや有意差がやや商業的な感は否めないが、ともかくこれで、オオカミならぬ「カリウムなんか怖くない」、だろうか(下図は1933年のディズニー映画『三匹のこぶた』で、レンガの家を作る1匹を残りの2匹が笑う歌、"Who's Afraid of the Big Bad Wolf")?
(出典はこちら) |
そうであってほしいが、いくつか懸念される点をあげておく。たとえば、カリウム吸着薬による消化器症状や消化管穿孔(こちらも参照)は大丈夫か?AMBERでは(新規吸着薬なだけあってか)下痢に有意差がなく、消化管穿孔の報告もなかったようだが、より長期の使用では注意が必要だろう。
次に、RAA系阻害薬を重ねることによる腎機能障害は吸着薬で解決しないのでは?AMBERでは、どういうわけか12週時点でのeGFR低下はプラセボ群のほうが多かった(2.1 v. 1.4ml/min/1.73m2、有意差の記載はなし)。「ACEI/ARBとMRAの併用」は「(NEPHRON-Dスタディなどで腎機能障害が問題になった)ACEIとARBの併用」などと違う、というのならよいが(これについては論文でも考察されていなかった)。
最後に、吸着薬を使ってでもMRAを加えたほうがよいのか?という根本的な疑問。じつはAMBERでは、MRAの継続率の高いパティロマー群と、継続率の低いプラセボ群で、12週時点の血圧に有意差はなかった。冒頭の各種スタディからは、「同じ血圧でも、MRAを加えたほうが心予後や生命予後が良さそう」とも類推されるが・・。
新規カリウム吸着薬は日本でも治験中だし、そのうち認可されることだろう。またMRAも、フィネレノンなど今後も新たに認可されるかもしれない。新薬がふえるのは結構だが、どのように治療に取り入れるか。こうしたスタディを他山の石として、今から慎重に考えておきたい。
(こちらより改変) |