2012/08/28

Central dogma being challenged

 塩分摂取→体液貯留→血圧上昇→心血管系イベント、というのは腎臓内科医(と循環器科医)にとってのセントラルドグマであるが、再検討されて始めており、それは医学界を越えてさまざまなメディアで報道されている。

 20年以上前、世界各地の食塩摂取(24-hr urine Na excretion)と血圧(収縮期血圧)の関係を比較したINTERSALTスタディ(BMJ 197 319 1988)が発表された。グラフをみると、ほとんどの地域で相関はほとんどなかった。それを、大きく外れたデータ(ブラジルの少数民族など)を入れて、無理やり「相関する」と結論したのだ。

 その後もいろんなデータが出たが、昨年には健康で若い被験者約3000人を対象に行ったobservational studyが発表された(JAMA 305 1777 2011)。アウトカムの一つは血圧で、Na摂取が100mol/day(食塩換算で約6g)増えるごとに収縮期血圧が2mmHg上がるという結果がでた。しかしもう一つのアウトカム、心血管系の死亡率は、Na摂取量が低い群で(なんと)最も高かった。

 塩分制限といっても、米国の入院診療で行われる「Na 2g(食塩換算で約5g)/day」など現実には不可能だ。これを読むと、低Na食は不可能なだけでなく、却って害になるのではないか?という疑問がおこる。さらに、それに沿う結果のもう一つの論文がJAMAに出た(JAMA 306 2229 2011)。

 こちらは中高年で、冠動脈疾患があり、糖尿病など心血管系イベントのリスク因子も多い約28000人の患者さんを対象に行われたobservational studyだ。尿Na排泄をスポットで測定し(利尿剤は止めた)、九州大学の川崎教授らが編み出したというKawasaki formulaで24-hr Na excretionの推測値を算出した。

 その結果が、有名なJ-shapeの曲線グラフだ。要は、尿中Na排泄が極端に少ない群と多い群でイベント(CV death、MI、CHFによる入院)のhazard ratioが高く、Na排泄が4-6g/day(食塩換算で9-12g/day)あたりが低かった。observational studyなので、associationしか言えないが、これからは単純に「食塩をへらせば減らすほど良い」とは言えないかもしれない。