「重症のANCA関連血管炎:AAVには血漿交換:PLEXに加えて免疫抑制療法」この常識もついに変わる日が来るのか。
以前から注目を集めていた研究の結果がNEJMに掲載された。AAVは無治療の場合1年以内に80%程度が死亡していたが1967年にステロイド、1979年にサイクロフォスファミド: CY、その後リツキシマブなど免疫抑制剤を使用する寛解導入療法により死亡率は減少した。しかしながら、死亡率の改善に伴い末期腎不全への進展や免疫抑制剤の長期使用による副作用による合併症が問題になってきている。
加えて1990年代以降PLEXが登場し、2007年のMEPEX研究の結果を受けて、AAV患者に対してCr≧5.8ないしびまん性肺胞出血を認められた場合は、血漿交換を行うという方針が打ち出された。
PLEXはいるのか?
免疫抑制療法は何とか減らせないのか?
論文のPICOは、P:重度ANCA関連血管炎の患者に対して、I, C:血漿交換の有or 無と経口グルココルチコイドを標準量 or 減量 の2×2の介入、O: 複合エンドポイント(死亡 or 末期腎不全)
結果は、
PLEX有 28.4%と,PLEX無 31.0%に複合エンドポイント発生した。(ハザード比 0.86,95% [CI] 0.65~1.13,P=0.27)
グルココルチコイドの減量レジメンの標準用量レジメンに対し非劣性であった。(11 %の非劣性マージンが設定され, 複合エンドポイント は減量群の27.9%と,標準用量群の 25.5%に発生し絶対リスク差 2.3%,90%[CI] 3.4~8.0と非劣性マージンを下回った。)
大雑把に把握すると、今回の患者群に対しては、PLEXの有無は死亡ないし末期腎不全への進展に関しては関係なく、減量レジメンと標準レジメンでも差がないということにある。
ただし、注意点はいくつかある。
・欧米ではAAVということは従来、GPAないしmPAのことを指す。
・重度の定義は「eGFR<50 or 肺胞出血が認められる」ことである。
・ANCA関連血管炎の定義は「ANCAが陽性である or 気管支鏡の所見で肺胞出血が証明されたもの」である。
・腎臓への影響は尿沈渣ないし腎生検で活動性を評価されており全例腎生検をしているわけではない。
・肺胞出血患者の数は少なくpower不足の可能性がある。
では日常のプラクティスにどう落とし込むか、特に日本の市中病院だと、ANCA陽性で転院してくる場合、初診ないし再診で謎の急速進行性糸球体腎炎として患者に出会うことが想定される。
ANCA陽性で転院してくる場合は研究通りの患者群であれば、血漿交換は使用せず、ステロイドは減量レジメンで良さそうである。ただし肺胞出血がある場合は施設によっては使用しても良いかもしれない。
初診ないし再診で謎のRPGNとして対応する場合は、鑑別としてGoodpasture症候群も含まれる。こちらに関しては、PLEXの有効性が現時点ではありと判断されているため、鑑別できるまではPLEXを行うという選択肢となるだろう。
これまでの常識を改めて検討する試みは重要である。
表:PEXIVAS試験でのステロイド標準レジメンと減量レジメン
体重毎に目安を表示、最初は全例IV、23週目以降で全てのPSL量が5mgとなる、52週目以降の内服は各施設に任せている点に注意