2012/11/15

Evidence-based management of hypercalcemia

 電解質第三弾、高Ca血症。高Ca血症は、悪性疾患などで患者さんの状態が元々良くないうえ、腎不全などをきたし、じつは予後不良だ。San Diego VAのretrospective studyでは約30%が悪性腫瘍によるものだった(Endocrine Practice 2006 12 535、この患者層はほとんどスモーカーだが)。台湾のERが行ったretrospective studyでは、高Ca血症患者の死亡率が23%だった(Am J Med Sci 2006 331 119)。意外な数字だが、副腎不全や結核患者も多かったようだ。

 悪性腫瘍による高Ca血症の原因は80%がHHM(PTHrPによる、とくに扁平上皮細胞由来の悪性腫瘍)、20%がosteolytic、1%以下が1,25-OH vitamin D上昇による(NEJM 2005 352 373)。PTHrPはtype1 PTH receptorに結合しPTHと同じく骨の脱石灰化を亢進し尿中のCa排泄を阻害する(JCI 1988 81 932)が、1,25-OH vitamin Dを抑制するのがPTHと反対だ(J Bone Miner Res 2005 20 1792)。

 治療はどうか?先月のCJASNにまとまったレビュー(CJASN 2012 7 1722)が出た。まずはカルシウムに毒されたTALと集合管を助ける。どちらもCaSRがあって、高Ca血症で前者ではNaClの再吸収が落ち、後者ではADHが不応になるから、補液でこれを解消する。生理食塩水が用いられるが、volume overloadと低Na血症に気を付ける必要がある。

 ループ利尿剤はどうか?生理食塩水との併用は(とくに腫瘍内科領域で)慣習だが、エビデンスは乏しい(Ann Int Med 2008 149 259)。というか、あるのはfurosemide単独使用の小規模スタディだけで、これは1120mg/dという高用量でも1/3の患者しかCaが正常化せず、多くは低Mg血症を発症した。生理食塩水との併用は、だから、奨めるデータも奨めないデータもない。少なくともvolume overload例には正当化できるだろう。 

 Bisphosphonateはどうか?効く、量に比例して効く(Am J Med 1993 95 297)、とくに強いpamidronate、zolendronate、ibandronateは(ibandronateはFDAが適応を認可していないが)。しかし腎毒性と腎機能低下時のdose adjustmentに留意が必要で、ASCOがガイドラインを出した(CJASN 2012 7 1722、表1)。腎毒性はcollapsing FSGS(とくにpamidronateに多い)、ATN(zolendronateに多い、不可逆的で透析導入になることも)、どちらも繰り返し投与した場合に起こりやすい。

 Calcitoninは?サケ(salmon)から作られるというのがユニークだが、まあ効かない、でも害もない。重症の高Ca血症でbisphosphonateと併用したら良かったというデータはある(BMJ 1986 292 1549)。[2015年5月追加]日本では即効性があるとして使われるようだが、推奨量が4単位/kgなのにたいして、日本の保険適応上限は80単位で足りないそうだ。なおBMJのスタディでは10単位を8時間ごと皮下注している。

 とまあここまでは知っている話で、ここからが新しかった。Gallium Nitrate(ガリウムは周期表の第13族、アルミニウムと同じ)は破骨細胞を止めるらしく、五日間連続静注でbisphosphonateより効くかもしれないというデータがある(Cancer J 2006 12 47)。ステロイドはリンパ腫による高Ca血症に用いられ、1α-hydroxylaseを阻害して1,25-OH vitamin Dを下げるという(NEJM 1992 326 1196)。

 抗PTHrP抗体(Clin Cancer Res 2005 11 4198、日本の研究)、抗RANKL抗体denosumab(Lancet 2011 377 4198)も開発された。RANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)とはosteoblastがosteoclastに話しかけるシグナルの一つで、これを受けた破骨細胞は成熟し増殖し活性化する(逆のシグナルは以前ここでも紹介したosteoprotegerin)。Bisphoshonate不応の高Ca血症にdenosumabを試した報告(一例、Ann Int Med 2012 156 906)もでた。