低Na血症の治療で推奨されている速度は、30年前は2mEq/l/hrだった。というのも、重度の低Na血症は脳浮腫により脳ヘルニアや重篤な脳機能障害をもたらすと考えられていたからだ。0.6mEq/l/hrでは遅いという論文がいくつもでた(JEJM 1986 314 1529、Ann Int Med 1990 112 113)。
しかしODS(osmotic demyelanation syndrome)が0.6mEq/l/hrを越える治療群で起こるというsingle-centerの報告が出て(Ann Int Med 1987 107 656)、12mEq/l/24hrと18mEq/l/48hrを越えると危険域と分かって来た(JASN 1994 4 1522、J Neurol 2010 25 1176)。
そもそも低Na血症治療のゴールは症状(とくに神経系の)を取ることで、そのためには4-6mEq/lのNa上昇で十分かもしれない(脳外科領域での脳浮腫に対する3%NaClのデータによる、Neurology 2008 70 1023)。
Na濃度を上げ過ぎたら、戻した方がいいのか。Overcorrectionは、起こる(CJASN 2007 2 1110)。コントロールスタディはないが、戻したら何も起こらなかったという報告はある(CJASN 2008 3 331)。ここではDDAVPを使っているが、これがVaptan使用例にも有効かは不明だ。演者は、overcorrectionを防ぐため3%NaClを用いる場合prophylaciticにDDAVPを投与していると言う(AJKD 2010 56 774)。
現在では、6-8mEq/l/dayを越えるべきではないというのが推奨だ(Editorial、JASN 2012 23 1140)。急性低Na血症は急速にreverseしても大丈夫と言われているし、実際水中毒のような場合、水を止めればNaは急速に戻る。しかしこの論文ではdo no harmの立場から急性でも慢性でもこのthresholdを守るべきとしている。