2012/11/02

ESRDと掻痒

 ESRDと掻痒について。特に注意して聞かなければ、患者さんから訴えることは少ない。以前はESRDの半数以上と言われていたが、DOPPSでは各国で約40%という(NDT 2006 21 3495)。痒みのメカニズムは何らかのシグナル(keratinocytes、mast cell、eosinophilなど)が神経終末に伝わるのが始まり。

 ヒスタミンを介したtransmission(HR4、IL31、TRPV1らが関与)、介さないtransmission(PAR-2などが関与)がある(Lancet 2003 361 690、Trends in Neuroscience 2010 33 550)。それが脊髄dorsal hornで脊髄神経にスイッチし、脳に伝わる。Functional MRIによればDFC、PCC、ACCなどが痒みに関係しているようだ(Br J Dermatol 2009 161 1072)。

 痒み神経線維と痛み神経線維は別と考えられ、痛みはVglut2を介してシナプスが交代するのに対し痒みはVglut1/3を介する(Neuron 2010 65 886)。さらに痛み神経はBhlhb5を介して痒み神経を抑制するのでBhlhb5を抑制するとマウスが痒がる。

 さて、ESRDと掻痒の関係はどうか?以前は二次性副甲状腺亢進症が悪いと考えられ、Cinacalcetが痒みを改善したというデータもあった。しかしDOPPS、ITCH National Registryなどのデータによれば痒みの程度とPTH、P、Ca、Mg、透析のefficiencyなどに相関はなかった(CJASN 2010 5 1410)。相関があったのはHep B/C(NDT 2008 23 3685)、CRP。

 現在では慢性炎症が重要なリスク因子と考えられ、痒みは慢性炎症のmanifestationであるがゆえにsurvivalとも相関している(Q J Med 2010 103 837、KI 2006 69 1626)ことも示された。Depressionとも相関しているという(DOPPSデータ)。

 さまざまな治療があるが、moisturising cream、capsaicinが最もよく用いられちゃんとしたデータもあるようだ。tacrolimus cream、endocannabinoids、γ-linolenic acidなども試されている。鍼はsystematic reviewが出ているし(J of Pain and Symptom Management 2010 40 117)、κ opioid agonistのnalfurafineも複数のcontrolled studyで有効性が示された(Am J Nephrol 2012 36 175)。SSRI、serotonin agonist(ondansetronの仲間)、gabapentin/pregabalin、UVBなども用いられている。

 腎臓内科にいると、このような皮膚科や神経内科領域ともオーバーラップするので飽きることがない。


[2013年12月追加] κ opioid agonistのnalfurafineは、すでに日本で適応が通っている(商品名レミッチ®、2.5mcg眠前)ことが分かった。μ受容体刺激はかゆみを起こし、κ受容体刺激はかゆみを抑えるという。副作用に不眠も傾眠もあるようだ。


[2019年11月11日追加]上記のnalfurafineは、むしろ2019年現在日本でしか認可されていない。米国でも治験は行われているようだが、nalfurafineは中枢神経系にも作用する「オピオイド受容体アゴニスト」なだけに、オピオイド禍に悩む米国でのハードルは高いかもしれない。

 それもあってか、当地では中枢神経系に入らず末梢組織限定のκ opioid angonist、difelikefalin(ダイフェリケファリン)が開発されている。そして、血液透析患者での第3相試験、KALM-1の結果が、11月8日にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに載った(doi:10.1056/NEJMoa1912770)。

 ・・だけでなく、同じ日にワシントンDCで開催されていたKidney Weekでも"High Impact Clinical Trial"の一つとして発表された。

 スタディは、ダイフェリケファリン0.5mcg/kgを週3回透析後に12週間静注した群(189人)は、プラセボ群(188人)とくらべたもの。両群とも平均年齢は50歳代、透析年数は約4年、カルシウムは8mg/dl台、リンは5mg/dl台。かゆみは約3年訴え、かゆみスコアWI-NRSは平均7点(最悪のかゆみが10点)とたかいが、約4割しか抗ヒスタミン薬などの治療を受けていなかった。

 結果は、12週時点でWI-NRSが有意に低下し(3点以上の低下は介入群で57%、プラセボ群で28%)、ADLへの影響も有意に低下していた。副作用でプラセボより介入群で多かったのは、下痢、嘔吐、たちくらみなどだった。





 KALM-1を受けて、欧州・英国・韓国・台湾・オーストラリア・ニュージーランドを含めたKALM-2(NCT03636269)が行われているという。日本では治験されていないが、いずれ入ってくるかもしれない。あるいは、国産で第2・第3世代のκ受容体アゴニストが開発されるかもしれない。

 Nalfurafineが登場して助かった患者さんもいるが、残念ながらあまり効かない患者さんもいる。どこの薬にせよ、患者さんのQOL向上につながるとよいなと思う(下図は日本昔ばなしの『河童のくれた妙薬』。同様の伝説は、日本各地にあるそうな)。