・いたちごっこをさけるため、1時間にでた量の75%を次の1時間で補う(レベルIIIエビデンス)
など一部の記載にエビデンスがつけてある。この文献ではさらに、
・認知機能の問題がなければ食事飲水してもらう
・認知機能に問題があれば0.45%NaClで補う
・24時間尿3L以下ならおそらく自然軽快していく
・3L以上でるなら病的PODで、Na・K・Mgなどの電解質異常や酸塩基平衡異常、ショックなどに注意して輸液する
とも書いていて、これらはエビデンスはない。けれども、どの先生もだいたい同じようなことを言っているのでコンセンサスかと思う。0.45%NaCl輸液を推奨するのは、PODの尿がisothenuric(希釈も濃縮もされない、という意味)で尿Na濃度がだいたい80mEq/lだからという。
…とまあ、コンサルトを受けると腎臓内科医はいろいろ調べる。そのうえで、どうやってお返事したらいい?ここからはサイエンスというより、アートかもしれない。正解はひとつじゃないけれど、たとえば回答例は:
ネフロ・ガールさん、
ブログを読んでくださりありがとうございます。ご相談ありがとうございます、AKI後の利尿期にどう輸液するか、悩みますよね。おっしゃるように、足りないのも困るし、入れすぎても「いたちごっこ」になるのが心配です。
AKI後の利尿期に特化した文献はあまりみつからなかったのですが、似た病態(移植後、閉塞後)なども参考に、またわたしの経験も参考にすると、この三点を考えてはどうでしょう。
1.どれくらいの量、どんな組成の尿がでているのか
3-4L/d以上ならより心配で、電解質や腎機能をこまめに測る必要があるかも知れません。尿Na 80mEq/lくらいが多いですが、尿生化学・比重もチェックしておくと安心と思います。
2.輸液をはじめる時点でどれくらい体液がたまっているのか
たまっているほどたくさんでるかもしれませんし、血圧や腎機能が安定していれば追いかけすぎないほうがいいおかもしれません。個人的には、体重をはかって入院前と比較してどれくらい体液過剰になっているかの目安にしています。
3.輸液と尿以外に、どのような水分摂取と水分喪失があるのか
食事(経管栄養)、飲水、不感蒸泄、消化液(胃管のドレナージや下痢)など、日を追って状況が変わりますのでそれを考えて輸液量を決めるのがいいと思います。
そのうえで、具体的にはこんなアドバイスができるかもしれません。あくまで参考にされて、ご自分のいる施設のやり方や他の先生のやり方も聞いてみるといいと思います。
尿測して1時間に200ml/h以上(5L/d以上)でるようなら、1時間ごとポンプで輸液速度を変えて追いかけられる環境で尿量の75%くらい追いかけたほうがいいかもしれません(腎移植後などがそうです)。体液喪失でショックがみこまれるならICUなども考慮して、最初の24時間くらいは6-12時間おきに血液検査や尿検査してもいいかもしれません。
尿量がそれより少ない(3L/dくらい)なら一般病棟でみてどうでしょう。輸液は、食事や飲水ができていなければ「維持液」と「補充液」にわけると管理しやすいかもしれません。前日から3Lでたなら、2L(50-75%)くらい全体で輸液するとして、維持液1-1.5L、補充液0.5-1Lとか。3L以上でたら1Lごとに0.5Lの追加輸液する必要時オーダも選択肢と思います。
数日のうちに経口摂取が大丈夫になって尿量も落ち着くでしょうから、それに応じて漸減するといいと思います。その頃には維持液とか区別しなくてもいいと思います。慣れれば、予め数日分漸減する輸液オーダをして、尿量や電解質・腎機能に応じて調整してもいいと思います。ここでも、測れれば、体重が意外と役立つかもしれません。
輸液の種類ですが、移植後や閉塞後多尿には0.45%NaClが推奨されることがおおいです。ただAKI後利尿の場合はこれというのがないので、電解質、尿生化学などをみて決めると思います。日本はNa 0mEq/l、約30mEq/l、約100mEq/l、約130・140・150mEq/lの500ml輸液が一般的なので、それらを組み合わせてもいいと思います。
参考になれば幸いです。輸液管理がうまくいき、またやりがいあるものになって、患者さんがよくなるよう願っています。貴重な学びの機会をありがとうございました、これからも応援よろしくお願いします!
追伸:多尿だったりAKI後だったりで尿カテーテルが入ってる人は、入れっぱなしに注意したほうがいいと思います。
(写真はWaterfallという曲を1994年にだしたTLC。歌詞に「滝を追いかけないで」とある)