欧州三学会(集中治療、内分泌、腎臓内科)が昨年発表した低Na血症のガイドライン(それぞれが発表しているが腎臓内科はNDT 2014 29 S2 ii1)は、すでに和文誌でも詳細に取り上げられている(INTENSIVIST 2015 7 477)が、まだそれほど普及していない印象を受けるので、とりあげたい。そうなんだけど「ガイドラインをまとめる」というのは、ガイドライン自体がすでに「まとめられたもの」なので、うまくやらないと結局丸写しみたいになってしまって難しい。
簡単には、このガイドラインでは新しいアルゴリズムが提唱されていて、そこでは大まかに①以前の体液量評価よりも尿浸透圧と尿Na濃度が前に来て、②重症・急性なら原因検索を待たずに治療(を考慮)というアクションが偽性や等張・高張浸透圧性低Na血症を除外したあとの最初に来ているという変化がある。
尿浸透圧は水排泄能を見るよい指標だから(これなしに低Na血症を診るということはありえないように教わってきたので、「外注です」とか聞くとびっくりする)、これが前にでてきているのは理にかなっている。水排泄能はAVPと浸透圧物質摂取量(と腎機能)で規定されるので、尿浸透圧が低ければ(100mOsm/kg以下;この数字に根拠はないそうだが)、AVPがOFF(希釈して水を一生懸命排泄してもまだ余るほど水を摂取している)あるいは浸透圧物質がなくて水を排泄できず水が余る状態だ。
ただ、尿生化学が先に来るからと言って、検査結果が出るまで指をくわえて待っているわけではない。腎臓内科コンサルトかなにかで、すでに尿検査結果がわかっている場合は別だが、そうでなければ結局検査を出す前に病歴聴取と診察で体液量をふくむ評価をすることに変わりはない。とはいえ体液量評価は難しいので、それを助けるために新しいアルゴリズムは腎臓の力を借りることにした。それが尿Na濃度だ。
ここでは尿Na濃度のカットオフ値を30mEq/lとして、それより低ければ有効循環血液量が低下していると判断する。Würzburg大学(内分泌)のFenske先生がeuvolemic hyponatremiaとhypovolemic hyponatremiaの鑑別に20mEq/l、50mEq/lなどいろいろ実験して結局この値に落ち着いたらしい。有効循環血液量の低下は、心不全・肝不全・ネフローゼなどECFが拡張している場合もあるし、下痢嘔吐・敗血症性ショック・以前の利尿薬などECFが少ない場合もある。
尿Na濃度が高ければ、まず腎のNa再吸収能が落ちていることによる原因(利尿薬、「腎臓病」←かなりアバウトだが)を除外する。そうでなければ①塩が捨てられECFが低下した病態(嘔吐←嘔吐初期には代謝性アルカローシスでろ過されてくるHCO3-を近位尿細管が再吸収しきれず、それに引きずられて尿Naも高くなる、renal / cerebral salt wasting;MRHEもここに入れていいかもしれない、一次性副腎不全→低アルドステロニズム、かくれた利尿薬使用)と、②ECFは正常にもかかわらず水排泄ができない病態(甲状腺機能低下症、二次性副腎不全→低コルチゾールによりACTHとAVPの抑制がされなくなる、SIAD←ADH過剰に似た稀な遺伝疾患も含めた総称)を考える。
アルゴリズムというのは「頭のいい人たちがつくって、他の人たちが頭を使わなくてもいいようにしたもの」に感じられるので、個人的には自分の頭を使ってすべての患者情報と病態生理と鑑別診断をならべて総合的に判断したいなと思ってしまう。この論文でいえば、最初の病態生理の総論と一つ一つの原因の各論を読むのがやっぱりためになる(し、アルゴリズムではカバーされていないものも触れてある)。
新しいアルゴリズムは尿生化学に重点を置いて、尿浸透圧ではAVPと溶質量を評価し(とくにAVPを中心においているのが正統的で)、尿Naで水過剰だけでなくNa喪失が従来よりもカバーされており(Na喪失の病態も結構多い…日本にとくに多いような気がする)、さらに有効循環血液量でECF低下と拡張の病態を統一的にしているのがすっきりしていると思う。アルゴリズムより、低浸透圧性低Na血症で尿浸透圧が100mOsm/kg以上のところから下流(そこまではお作法なので)を表か何かにまとめたら使いやすそうだ。