2015/09/16

Think Aloud

 内服薬のうちで適応となる疾患が既往症にリストされていないものをorphan drug(孤児薬)と呼び、その場合は適応の疾患があるのか吟味するか、適応なく使われている(または副作用がでている)ようなら中止することがpatient safetyとpolypharmacy対策(と医療経済)の面から薦められている。

 たとえば前医からのお手紙でcarvedilol、spironolactone、digoxinが処方されているのに既往のリストに慢性心不全がないというのは不思議だが、まあたぶん書き忘れだろう。問診と診察したうえで、私なら心不全の病名をつけて孤児たちに親を見つけてあげる。で、これらの薬の組み合わせをみると、いろんなことが考えられる。

 まずEF低下の心不全が疑われ、そういう目で診療する必要がある。すると、EF低下の心不全が本当なら心腎症候群などで腎機能も低下している可能性が透けて見えてくる。そこにspironolactoneが入っていれば、腎血流低下によりいつでも腎機能が低下したり高カリウム血症を起こしたりする可能性がある。

 なおMRA(mineralocorticoid antagonist;spironolactone、eplerenone)はEPHESUS(NEJM 2003 348 1309)、RALES(NEJM 1999 341 709)、EMPHASIS-HFスタディ(NEJM 2011 364 11)などで有効性が示されているが、EPHESUSはMI後のスタディだし、RALESとEMPHASIS-HFは基本的にACEI/ARBとの併用での有効性を示したスタディ。また、EMPHASIS-HFはeGFRが30ml/min以下の症例を除外している。本当にこの症例で有効かつ安全なのかを考えなければならない。

 造影剤使用にあたっては予防が必要なことは言うまでもないし、digoxinが必要か(心不全治療における位置づけは下がっていると記憶しているが…また腎不全があれば血中濃度を治療域にとどめるのも難しくなるだろう)も考える。

 こういう、頭に思い浮かぶことを言語化するのをthink aloudというが、日本にはあまりない習慣かもしれない。ぜんぶ言い尽くすから正しいことも間違ったことも露わになって成長が促されるが、大変は大変だ。


 [2016年7月追加]MRAのキー論文、PATHWAY-2(Lancet 2015 386 2059)を最近知った。resistant hypertensionにはspironolactoneという慣習的に知られたことを、β遮断薬、α遮断薬と比較して示したものだ。