2015/06/19

代償性腎肥大とclass III PI3K/mTORC1/S6K1 signaling

 もうその道の先生方ならとっくにご存知かと思うが、腎肥大に関する画期的な論文がJCIに出た(JCI 2015 125 2429)。例の米国の優秀なお友達が論文をくれて、ありがたいことだ(その方は私が以前に書いたremote ischemic pre-conditioningについての最新の論文もくれた)。生体腎移植のドナーや腎腫瘍患者さんなどで片方の腎臓を摘出された場合、残った腎臓が代償性に肥大することは良く知られている。

 腎肥大はなぜおこるのか、その分子的な機序は長年不明であったが、この論文はそのうち二つを明らかにしたものだ。

 一つはEGFRを介したclass I PI3K/mTORC2/AKT signalingで、これは腎摘出とは関係なくEGFRが刺激されると下流のカスケードにスイッチが入り尿細管増生が起り腎massが大きくなる。もう一つは、片腎を摘出した後に残りの腎への血流が増え栄養が増えることにより賦活化されるclass III PI3K/mTORC1/S6K1 signalingだ。

 画期的な研究だが、個人的には腎massの増大が尿細管の増生なことに少しの違和感を感じる。つまり、糸球体の数は変わらないということだ。Hyperfiltrationになるのは片腎への血流が増えるからで、じつは糸球体に負荷がかかっているのかもしれない。尿細管が増生しても、各種イオンの排泄・再吸収には貢献するだろうがeGFRにはあまり関与しない。むしろ、論文のdiscussionに書かれているように代償性肥大は腎に負荷がかかりいずれmaladaptationに陥る(ネフロンの障害や間質の線維化を起こす)という考えもある。先日書いたobestity-related glomerulopathyなどはそのよい例だ。

 しかし生体腎ドナーは腎予後もよく長生きするわけだし、尿細管の増生によって成長因子や良いサイトカインが出てネフロンが保護されているのかもしれない。