2015年6月5日金曜日

Stem Cell & Regeneration 1

 私が医学生のとき産婦人科の臨床実習でついた指導医は子宮頚がん手術の名人だったが、その先生がある日「本当は子宮頚がんなんてHPVワクチンで撲滅されて俺の技術が要らなくなるのが一番いいんだよな」とぽろりと本音をもらした。そのとき、先生の心意気に感動したことを私はいまでも覚えている。同じように、私も「いつか末期腎不全に再生医療が行われるようになって、透析も(生体・献腎)移植も要らなくなったらどんなにいいか」と本気で思っている。以前に参加した米国腎臓学会の開会式(につづくstate-of-the-art talk)も再生医療がトピックで同じことを考えたと書いたが。自分の学んできた知識や経験の一部が役に立たなくなることなんて、患者さんがハッピーになることに比べたら小さなことだ。

 というわけで、せっかく自分の専門科の学会に来たのだから普段は聞けないような話が聞きたいと「幹細胞・再生」セッションに参加してきた。といっても金曜日の午前中だから参加者は少なめだし、部屋も小さかったから、純粋な臨床医だった聴衆は非常に少なかったと思われる(もしかしたら私だけだったかもしれない?)。尿細管の再生にHGF(hepatocyte growth factor;肝細胞の増殖因子なのに腎臓にも効くなんて面白い)が関係しており、またGDNF(glial cell line-derived neurotrophic factor;こちらは神経細胞の生存を維持する因子だが、腎の発生にも関与している)はHGFの存在下でc-Ret / GFRαRに結合し尿細管再生を促進するそうだ(ただしin vitroの実験だが)。というかいまGoogleでHGFを調べたら、なんとネコの慢性腎臓病にはHGF注射がすでに行われているらしい…知らなかった…。

 あとはさまざまな動物モデルで腎に幹細胞を注射して効果を見る発表がつづいた。虚血後再潅流によるAKIモデルの実験は臨床家としては「ATNなんて時間がたてば徐々に回復するから幹細胞の効果とは言えないんじゃないかな?」とも思ったが、まあいいか。幹細胞もいろいろで、ヒトの乳歯の歯髄からとったもの(SHED;stem cells from human exfoliated deciduous teeth)、MSC(mesenchymal stem cell;ANCA関連血管炎にすでに臨床応用されているという…Mayo Clin Proc 2013 88 1174)←ただし組織因子が増えて凝固傾向になるため、韓国や中国でこの治療を受けた患者さんが肺塞栓で亡くなっているらしい;それで組織因子が少なくなるように培養液を薄めたLASC(low serum cultured adipose tissue-derived mesenchymal stromal cells )が安全かもしれないという発表があった、DFAT(de-differentiated fat)細胞、iPS細胞由来のOSR1+ / SIX2 +中間中胚葉細胞、K(idney)-iPS細胞など。

 K-iPSはメサンギウム細胞由来のものがオーストラリアの研究室でまず作られ(JASN 2011 22 1213;18歳男性の腎臓から採取され培養されたらしい…腎摘の検体だろうか)、尿から尿細管由来のものがオーストリアの研究室で作られた(JASN 2011 22 1221)。再生腎をつくるには、分化前のepigenetic memoryを残した腎由来の幹細胞から作るほうがやりやすいのかもしれない。まだ「再生腎ができました」という発表はなかった(そんなものがあったらとっくに報道されているだろうから無理もない)が、再生医療の研究をしている人たちが日本にこんなにいるんだなあというのが分かって嬉しかった。明日も同じトピックのセッションがあるので聴こうと思う。あとセッション最後の発表が、iPS細胞からEPO産生細胞を作製して慢性腎臓病モデルのマウス腎臓に10万個打ち込むと、貧血が改善するだけでなく、Hgbが16週間一定に維持され、多血症にもならなかったというのが興味深かった。細胞が賢くてHgb濃度を一定にするようにEPOを調節して産生してくれるのだとしたらすごい。