2015/06/06

AN69ST膜

 日本には「血液浄化」という言葉があって(英語にもblood purificationと訳されているがあまり使われない)、透析によっていろいろ除去して患者さんを助けることが出来るという信念のもと優れた膜の開発や透析方法の工夫がなされている。ヨーロッパもそうだ。しかし多くは大規模スタディでいまだ結果が出ていないのが現状だ。

 High-dose CVVHDF(70ml/kg/hr)を試したヨーロッパのIVOIREスタディも有意差がでなかった(Intens Care Med 2013 39 1535)。Polymyxin B hemoperfusion(PMX-DMP)はEUPHASスタディ(JAMA 2009 301 2445)では有意差が出たが、腹膜炎に対するABDO-MIXスタディでは2014 ISICEM(international symposium on intensive care and emergency medicine) conferenceの予備結果で有意差が出なかったという(ただし膜のclottingが多かったらしい;Crit Care 2014 18 309)。北米ではEUPHRATESスタディが走っている。

 早期RRTについてはスタディの立て方が難しい(早期RRT群はそもそもRRTが不要だった群という問題を包含しているし、早期介入の基準をどこに置くかが難しいため)が、インドのスタディでは有意差が出なかった(AJKD 2013 62 1116;他にもたくさんこの手のスタディはあるのにどうして講演でこれが引用されたのかよくわからない…比較的最近でたからだろうか)。しかしいまSTARRT-AKIスタディがカナダで、IDEAL-ICUスタディがフランスで走っているので結果まちだ。

 で、CAH(cytokine absorption hemofilter)として登場し、膜技術の粋を集めて作られたのがAN69ST膜(商品名SepXiris®)だ。これはサイトカインの吸着に優れたANとmethacryl sulfoneのコポリマーにpolyethylenenimineを表面処理しており、生体の炎症惹起が起こりにくいとされる。日本のスタディで(ちょっとアクセスがないのでどんなのかわからないが;Blood Purification 2012 34 164)いい結果が出たらしいので、日本ではすでに保険適応が通っている。それは;

(1)重症敗血症及び敗血症性ショックの患者
(2)敗血症、多臓器不全、急性肝不全、急性呼吸不全、急性循環不全、急性膵炎、熱傷、外傷、術後等の疾患又は病態を伴う急性腎不全の患者、あるいはこれらの病態に伴い循環動態が不安定になった慢性腎不全の患者

 だそうだ。つまり腎不全がなくてもいいわけ。いつの間にこんなことになっていたとは…(いいのか?)。重症敗血症というのも曖昧な表現だし、誰にいつまで何を指標にどれだけ行くのか、そしてその有効性は大規模RCTで検証されることになるのか、まだ誰も知らない…。ただ抗凝固は出来ればヘパリンがいい、nafamostatを使うとpolyethyleneimineで表面処理している関係でnafamostatが吸着されて回路内凝固を起こすらしい。

 [2016年7月追加]数年前に、ハーバードの画期的な応用研究をする機関Wyssが、マンノース結合レクチン(MBL)をFc抗体につけた分子を磁性ナノビーズにコーティングした「磁性オプソニンビーズ」で血中の細菌を吸着して、膜の外から磁気をかけてビーズごと抜いてくるという「人工脾」を開発した(Nat Med 2014 20 1211)。

 血液に菌を入れて感染させたモデルで100%ちかい菌を除去するが、臨床的に敗血症というのはどこかにフォーカスがあって全身に菌がいるのと、増殖を指数的に続けていると思うので、それを除去だけで治せるかはわからないなと思う。エボラも除去できるかもしれないそうだが、あれからフォローアップ情報を聞かない。