英語で他の専門科領域に踏み込むことをstep on one's toesと言ったりするが、腎臓内科は他専門科とオーバーラップするので他科のつま先を踏むことは避けられない。たとえば内分泌内科などとは、ADH、RAA系、カテコラミン、糖質コルチコイドなどのホルモンでかぶる(電解質異常や二次性高血圧で)。また糖尿病と糖尿病性腎症が密接につながっている(すこしずれるが米国では膵腎同時移植の膵グラフト管理を内分泌科医ではなく移植腎臓内科医がおこなっていた)。PTH、ビタミンDなどもCa、P異常などの原因検索でかぶるし、腎不全による異常なら内分泌内科ではなく腎臓内科がみる。
内分泌内科の診断は、負荷試験などの精密検査が「何時にどんな体位で何を測定してから何を打って何分後と何分後に何を測る;事前にあの薬もこの薬も入っていてはいけない」など厳密にプロトコル化されているのが凄いなと思う。腎臓内科医に一般化は出来ないと思うが、私など例えば原発性アルドステロン症の診断をするのに、「ホルモンが自動であふれ出ているのならちょっとやそっとスピロノラクトンを投与しても抑制などされないでしょ?」と思ってしまう。しかしこういう発言をすると怒られそうだから、おとなしく仰せの通りプロトコルに従っている。まさに、つま先を踏まないように注意しているわけ。
逆に、どちらも手を出さない領域というのもある。たとえばレニン産生腫瘍などは、そもそも稀な疾患なので経験がある施設が少ない。だからこういう時は腎臓内科と内分泌内科(と放射線科)が知恵を合わせることになる。調べてみると造影CTで腎皮質に腫瘍(小さくてもいい;レニン産生腫瘍は傍糸球体細胞の腫瘍だ)をみつけて、選択的腎静脈レニンサンプリングというのをIVRにお願いしてその腫瘍がレニン産生であることを確認する(海外の報告はJ Hypertension 2008 26 368、日本の報告はIntern Med 2013 52 1937)そうだが、この手技がうまく行かなかったという報告も多いから難しい手技なのだろう。