回診中に入院患者さんで暗褐色尿がでますというので、調べてもミオグロビン尿もヘモグロビン尿もビリルビン尿も血尿もない。というわけで、薬か?と思ったら最近メトロニダゾールが始められており、研修医の先生にスマホで調べてもらったら副作用があった(Journal of Pharmacy Technology 2014 30 54)。添付文書によれば代謝されてできるアゾ化合物の影響と考えられているそうだ。ここで使う頭は別に医学とは関係ない、ただの推論力と好奇心だ。
薬による尿の変色にはリファンピン(オレンジ色)、ドキソルビシン(赤~オレンジ)、プロポフォール(青緑)、ニトロフラントイン(茶褐色~黒)、アセトアミノフェン大量内服(茶褐色~黒)などがある(SMJ 2012 105 43)のと、有名なのはpurple urine bag syndromeでこれはWikipediaにも載っているから説明しなくてもいいけど便中のトリプトファンが細菌によりインドールになって、吸収され肝代謝をうけてインジカンになり、尿路の細菌によりインジゴブルー(青)またはインジゴピン(赤)になってバッグを染める。
さらに調べてみると、「虹色の尿をだす少年」というクイズ形式の論文があった(NDT 2001 16 2097)。化学者のお母さんをもつ16歳の少年で、学校の成績が悪いときに限ってさまざまな変な色の尿が出るという。尿異常ではacidificationの障害、高尿酸尿症、汎アミノ酸尿、そして色素の凝集が鏡検された。尿細管障害とカラフルな尿となると、重金属のなかでもクロムが疑われる。クロムの色素はpHによって色が変わる。
そこでサンプルに硝酸銀、塩化バリウム、酢酸などをかけて沈降物ができたりそれが溶解したりするか調べて、クロムの検出が証明された。学校の成績が悪いときに変な色が出たのは、病院受診をすると学校を休める(病院まで3000kmある;インドの話なので)という疾病利得があったからで、クロムはおそらく絵の具や染料を摂取していたのだろうと思われた。しかし本人もお母さんも診断を否認したので結局精神科に紹介して、そのうち症状は治まった。
[2019年11月1日追記]今週のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに、上述のpurple urine bag syndromeが紹介されていた(NEJM 2019 381 e33)。知らないとビックリする(下図も前掲論文より)ので、ときどきはこうして読者に啓発しようという同誌の意図なのだろう。