2015/05/11

珊瑚状結石の悲劇

 珊瑚状結石は放置すると腎臓を破壊し、慢性腎臓病から末期腎不全に至る。尿路結石は、できてしまったものは泌尿器科で砕くか除去するかするにしても、本質的には腎臓内科の疾患で、石ができやすい組成の尿を治療する(水分摂取励行、塩分摂取制限、クエン酸摂取励行、マグネシウム摂取励行など)ストーン・クリニックも米国にはある。しかし珊瑚状結石(Staghorn calculi)については、内科的治療に限界がある。

 珊瑚状結石はその組成がmagnesium ammonium phosphate (struvite) and/or calcium carbonate apatiteだが、ureaseを産生する細菌で石自体が感染しているのと、尿pHがアルカリ性なため(後述するが尿pHを下げる良い薬がない)、一旦できてしまったら石も菌もごっそり完全に外科的に除去するのが治療の根幹だ(それでも再発するくらい厄介だ)。米国泌尿器科学会のガイドラインでは四つの治療法を紹介している。①経皮的切石術(percutaneous nephrolithotomy、PNL)単独、②PNLと超音波砕石術(shock-wave lithotripsy 、SWL)の併用、③SWL単独、④open surgeryだ。これらを試した文献をmeta-analyticalにまとめた成績は下図のようになる。




 以前はopen surgeryが行われていたようだが、侵襲が大きい(死亡率をまとめた良いデータはないが、ガイドラインのパネラー達は約1%と見積もっている)ので最近はほとんど行われないという。PNLが第一選択なようだ。SWLは、手術侵襲のリスクが大きい場合に行われるが、砕いた石が落ちないといけないので砕いたあと経皮的腎臓鏡で石をのぞくか、尿管ステントを留置して下に流すかしないといけない。Open surgeryもPNLも手術なので20%程度の例で輸血を必要とする。

 少なくとも米国泌尿器科学会のガイドラインは珊瑚状結石を放置することに対してこのようにコメントしている;

Nonsurgical treatment, that is, management with antibiotics, urease inhibitors, and other supportive measures only, is not considered a viable alternative except in those patients otherwise too ill to tolerate stone removal. A retrospective analysis of almost 200 patients with staghorn calculi suggested that renal deterioration occurred in 28% of patients with staghorn calculi who were treated "conservatively."

 ここにでてくるurease inhibitorsとはacetohydroxamic acidのことだ。この薬は尿pHを下げ(struviteはリン酸塩なので尿pHを下げるほうがいいのだ)尿アンモニア濃度を下げるけれど、静脈炎、深部静脈血栓症、溶血性貧血など副作用が多い薬なうえ、腎機能が悪い例では効果が少なく副作用が強く出てしまう(eMedicine®より)ので、ガイドラインには"may offer to patients with residual or recurrent struvite stones only after surgical options have been exhausted (Option; Evidence Strength Grade B)"と記載されている。

 というわけで、腎臓内科医は珊瑚状結石に対して無力である。泌尿器科の先生方に「このままでは徐々に腎機能が悪化するのは目に見えています、なんとかならないでしょうか」とお願いするしかない。それでも先生方が「外科的除去は技術的にリスク的に無理」とおっしゃったら、それまでだ。徐々に腎機能が悪化するのを指をくわえて見ているしかない。そういう例を見るのが、日本に来てから多い気がする(というか米国の5年間では一例も見なかった)のはなぜだろう。