2015/05/19

HOPE Act

 昔はAIDSでばたばた亡くなっていたHIV感染患者さん達がHAART時代になって長生きできるようになるにつれ、慢性疾患の治療が重要性を増していることは、以前米国のHIV clinicにいたときに感じた(と以前書いた)が、腎臓領域ではHIVAN(HIV-associated nephropathy;典型的にはFSGSだが薬剤性とかいろいろ)でESRDになることが問題になっている。米国ではHIV感染者の死因10%がHIVANで、African AmericanのESRD原因の三位がHIVANだという。HIV感染患者さんに腎移植すると、免疫抑制でHIV感染が再燃するのではないかと心配されるので、多くの人が透析になっている。

 しかし、basilizimabで導入してCsA+sirolimus+ステロイドのレジメンを使ったら、HAARTが効いていればCD4カウントやRNAのundetectable状態は維持されて、グラフト生着率と生存率も他のハイリスク症例と同程度だったという一施設報告はある(KI 2005 67 1622)。またUNOSを見直して見ると、HIV感染の患者さん達において長期のグラフト生着率はHIV非感染の患者さんにくらべて劣るものの、患者を適切に選択する・生体腎・CIT(cold ischemia time)の短縮・免疫抑制を適切に選択するなどの工夫をすればグラフト生着率は改善できるのではという報告もある(Arch Surg 2009 144 83)。

 というわけでHIV感染のESRD患者さん達にもっと腎移植の機会を増やそうとして2013年に米国で通過した法案がHOPE(HIV Organ Policy Equity) Actだ。それまでHIV感染腎を移植することは触法行為であったが、HIV感染患者にならHIV感染腎を移植しても問題ないだろうということでそれを可能にしたのがこの法律だ。これで、年間数百件のHIV感染レシピエント-HIV感染ドナー間の移植が可能になるのではという試算がAJTに報告された(DOI: 10.1111/ajt.13308)←が、こんな論文が法律施行後2年で出るということは、まだHIV感染腎移植は少ないということなのだろう。なお同様の例はHCV感染でもみられ、これは日本でも行われているようだ。

 [追加]米国で働いている先生から教わったが、HOPE ActでHIV-HIV腎移植はニューヨークやサンフランシスコを中心に行われているそうだ。また、HIV-HIV腎移植の実績が南アフリカからNEJMに報告された(NEJM 2015 372 613)が、それについてのletter to the editor / correspondence(NEJM 2015 372 2069)も先週でた。論文を見直すと、グラフト腎にHIVANをきたしたり(二種類のstrainが共存するためか、腎がHIVのreservoirになるためか)、免疫抑制剤とHAARTが相互作用を起こしてCNI toxicityになったりしていた(HAARTはintegrase strand-transfer inhibitorsをベースにしたレジメンだとCYPへの影響が少なく相互作用が押さえられるのではないかと言われている)ようだ。