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2020/07/30

重症AKI時の透析緊急導入に対する現時点での考え方

今回は、急性腎不全における透析開始時期に関して触れたいと思う。これは数年前から腎臓内科領域ではとてもHotな話題である。

この話をするときに2020年の2つの論文は要チェックしておく必要がある。
1つ目はSTARRT-AKI(NEJM 2020)である。

この研究はICU患者で重度AKI(KDIGO 2・3)の患者に対して積極的透析導入群と通常導入群を比較したRCTになっている。
対象患者は18歳以上。積極的導入群で1465人、通常導入群で1462人であった。
各導入群の詳細に関して:
・積極的導入群:
  研究に組み込まれて12時間以内に透析導入をした群

・通常導入群:
  いわゆる透析導入のAEIOU(A:Acidosis、E:Electrolyte disorder、I:Intoxication、O:Overload、U:Uremia)を満たしたもの+AKIが72時間以上持続するもの。具体的には下記を満たしたものである。
 ・K > 6.1mmol/L、pH < 7.21、HCO3 < 12.1mmol/L、臨床で体液過剰を疑いP/F ratio <
201、AKIが72時間以上持続する場合に導入とした。

結果:
積極的導入群の96.8%、標準導入群の61.8%が透析が実施された。
・90日死亡率では差がなく
・90日時点で生存している患者の透析依存率は積極的導入群で10.4%、通常導入群で6.0%(有意差有り)であった。
・有害事象は積極的導入群の23%、通常導入群の16.5%(有意差有り)に生じている。

この試験の結論として、重症AKIに対しての積極的な透析導入は有効ではないことが示された。


過去の大規模試験ではELAIN試験(JAMA 2016)では有効、AKIKI試験(NEJM 2016)では無効、IDEAL-ICU試験(NEJM 2018)では無効という結果が出ている。


他にも規模は小さいが、同じような研究が行われておりそれをまとめたのが
2つ目の論文(LANCET 2020)になる。

このSystematic reviewでは、2008/4/1〜2019/12/20までの重度急性腎不全に対する積極的透析開始と通常透析開始の有用性を見ている研究を対象に行なっている。
下記の10個の研究(2083人の患者)を組み入れて行なっている。

LANCETより引用
LANCETより引用
LANCETより引用
・Primary outcomeはランダム後28日での全死亡率

・Secondary outcomeは28日後以降の死亡、60日・90日後での全死亡率、院内死亡率、入院期間、28日以降での透析してない日数、退院時の透析依存数、退院時の血清クレアチニン、28日以降での人工呼吸器や昇圧剤未使用日数を見ている。

研究は異質性も少なく、Appendixを見てもFunnel plotも出版バイアスも少ない研究である。
結論としても、Primary, secondary outcomeとも違いは出なかった。
下記が結果になる。
LANCETより引用

LANCETより引用

つまり、2020年の段階では重症AKIに対して積極的導入を推奨することはできず、しっかりと患者モニタリングをしながら透析が必要な場合に透析を行うことが現段階の流れである。

これらの研究は、非常に腎臓内科・集中治療領域にとっても重要であると思う。
なんでも早めに透析をすればいいものではないし、しっかりと透析が必要な時期に透析を行う。そして、大事なのは見極める臨床の力であり、我々も日々それを鍛えながら診療をしていかなくてはならない。



2020/02/17

急性腎不全のマーカーについて、新規で報告されたsuPARとともにに考える。

今回、2015年にSuPARと慢性腎不全でNEJMに発表したグループからSuPARと急性腎不全という話題で論文が出た。
一つのことをしっかり続けていく重要性を実感する論文である。

急性腎不全に関しては様々なマーカーが有る。
NGAL、KIM-1、IGFBP7、TIMP-2

AKIのバイオマーカーに関しては浜松医大の安田先生の記事がとてもわかり易い。これに関しては必読するべきである。

CJASN 2015より引用
CJASN 2015より引用
上図はAKIのバイオマーカーについてまとまっている2015年の論文になる。

suPARは通常では様々な細胞(内皮細胞、足細胞、単球、リンパ球など)に僅かにしか発現していない。このsuPARの上昇が腎機能障害に関連することは様々な研究からも示されている(CJASN2018など)。


このsuPARの上昇とAKIの関連性を見たのが今回の話になる。

今回のものは、
患者:AKIとしては冠動脈造影後、心臓血管術後、集中治療患者を主に見て、
Outcom:suPARの血中濃度を用いながらprimary outcomeとして7日目の急性腎不全のリスク評価、secondary outcomeとして90日でのAKIと死亡をみている。

追加で行ったこと:ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ受容体(uPAR)に対するモノクローナル抗体が造影剤AKIのトランスジェニックマウスに対する効果を検討し、ヒト腎近位尿細管(HK-2)細胞に組換えsuPARを曝露させ、細胞のエネルギーの検証と活性酸素産生を検討した。

結果としては、下記になる。
4分位群(CAG後のAKIの割合をみてもの)に関してはModel3にいくほど、多変量解析になっている。その点でModel3の結果を見ると、Primary outcomeのsuPAR増加とAKIの発症の相関は認められた。
心臓血管術後、造影剤使用後も同様の結果が得られた。
NEJMより引用

また、野生株(Wild type)とsuPAR transgenic(ヒト腎近位尿細管(HK-2)細胞に組換えsuPARを曝露)株マウスで、造影剤(iohexol)投与したものと、造影剤+uPAR抗体を投与したものをみたものが、下表のものになる。
造影剤投与で悪化は認めるが、suPAR transgenic株では、尿細管拡張などが見られている。
造影剤+uPAR抗体では、suPAR transgenic株の尿細管拡張所見が明らかに抑えられている。
このことから、suPARを抑えることで腎障害が改善しており、過剰発現の際には腎障害になりやすいことがわかる。
NEJMより引用

今後、このマーカーが使われる日が来て、治療でuPAR抗体を使う時が来るのだろうか。抗体製剤なので、きっと高額であろう。AKI治療で改善をする可能性も高い中で、どこまでその治療をしていくのか?
まずは、AKIからCKDに移行しやすいリスクの層別化を行い、その後治療をというのが未来の治療なのかもしれない。