2020/07/07

ADPKDと胆道系疾患

 ADPKDで血液透析を受ける患者さんが発熱したら、筆者は恥ずかしながら「1にのう胞感染、2にのう胞感染、3・4がなくて、5にのう胞感染」と思っていた。腎臓専門医試験のために提出する『先天性腎疾患』症例サマリも、のう胞感染にしたほどだ。

 しかし、当然ながら発熱を起こしうる原因疾患は他にもあり、なかでも胆道系感染や膵炎は、ADPKDが固有のリスク因子であることを覚えておかなければならない。根拠となる疫学スタディを二つあげると:

1. 1998年から2012年までの英国England Hospital Episode Statisticsデータから、PKD患者23454人と対照患者6412754人を抽出(うち末期腎不全患者は5813、62519人)したところ、胆道系疾患入院のリスクは以下のようであった(JASN 2017 28 2738;末期腎不全群は患者数が少ないことによる統計学的パワー不足もあるだろう)。

全患者 2.24(95%CI 2.05-2.20)
 男性 2.82(2.67-2.98)
 女性 1.85(1.75-1.95)
 40歳未満 1.82(1.62-2.03)
 40-60歳 2.04(1.90-2.18)
 60歳以上 2.50(2.16-2.33)
末期腎不全患者 1.19(1.08-1.31)
 男性 1.12(0.98-1.29)
 女性 1.26(1.11-1.44)
 40歳未満 1.35(0.95-1.92)
 40-60歳 1.04(0.90-1.20)
 60歳以上 1.36(1.18-1.55)

2. 2000年から2010年までの台湾健康保険データから、PKDコホート6031人と非PKDコホート23976人を抽出(約30%が血液透析患者)したところ、肝・胆・膵疾患入院の調整後サブハザード比が以下のように有意に高かった(Oncotarget 2017 8 80971)。

急性膵炎 2.36(95%CI 1.95-2.84)
胆管炎 2.41(1.93-3.01)
消化性潰瘍 2.41(2.17-2.67)
肝硬変 1.39(1.16-1.66)

 のう胞腎と胆道系疾患といえば、まず思い出すのはARPKDだろう(非閉塞の管内胆管拡張、Caroli病とも)。しかしADPKDでも腎外症状のひとつとして、大腸憩室などとともに胆道系疾患を想起しなければならないと痛感した。

 なお、1つ目の文献はオクスフォード大学の腎臓ユニットが「1967年から2015年まで1011人のADPKD患者さんを診てきたが、どう考えても胆道系疾患が多い!」と気づき、それを検証したものだ。ベッドサイドの経験を検証する方法として、ビッグデータの役割は今後ますます増えるだろう。