2012/02/28

肝切除後の低リン血症

移植の月は週二回カンファレンスがあって、移植外科、移植肝臓内科、移植腎臓内科、多職種がみんなあつまり症例検討する。ある日こんなことがあった。肝切除後の患者さんを議論していた時、外科指導医が外科レジデントに「なぜこの人は低リン血症なのか?」と聞く。レジデントが答えられず、フェローも「肝切除後に低リン血症が起こる」事実を知っていても理由は知らないふうだった。

 そこで外科指導医が「これは残りの肝臓が増殖する時にリンを吸収してしまうからと考えられている」というと、そこで腎臓内科指導医が「たしかにそう考えられているのだけれど、最近になって腎臓からリンが失われていることがわかり、その機序について研究されているところだよ、こないだ論文を読んだ」とさりげなく一言つぶやいた。そしてカンファ中に自分のポケットPCから論文(Annals of Surgery 2009 249 824)を取り出して私を含め指導医達にメールで送ってくれた。私は「肝切除後に低リン血症が起こる」ということすら知らなかった。

 論文を読むとなるほど低リン血症が起こる、ときに重度で術後の呼吸不全をきたすこともある、肝の増殖だけでは不十分で他の原因があるに違いないと尿中のリン排泄を調べると果たしてFEP(fraction excretion of P)が術後に増加することが分かった。その機序についてPTH、FGF-23、FGF-7など様々なphosphaturic hormoneレベルが調べられたが、どれもあまり関係がないことが分かった。

 その移植腎臓内科の指導医が何でもよく知っていることはみんな認めていて、カンファレンスでも彼の発言は尊重されている。この一言の後、移植外科医が彼の博識に舌を巻く様子を隠して「腎臓って何にも関係しているんだなあ」という冗談めいた返答をした。それにしてもAnnals of Surgeryまで読んでいるのか…。そこまで手を広げる日は遠い気がするが、今度どうやって論文をチェックしているのか聞いてみよう。

 [2017年7月追加]Nicotinamide phosphoribosyltransferaseがリン利尿をおこしているかもしれないという論文をみつけた(JASN 2014 25 76)。