2017/02/11

Renal carcinomaを考える(腎臓内科医にとっての腎癌, onco-nephrology)

今回腎細胞がんについて触れてみる。
理由としては、移植後の腎癌の症例を以前経験したときに勉強し直したいというのと、今回NEJMで腎癌のReviewが出ていたからである(NEJM 2017)。

腎癌は腎臓内科医にとっては弱いところなのかなと個人的には思うが、最低限の知識は知っておかなくてはならない。

疫学: 
腎癌は50-70歳に多く男性は頻度が高い。喫煙はリスク因子となり、本数が多い、喫煙期間が長いと発生率が上昇し、生存率も悪いという報告がある。高血圧や肥満も関連因子としてはあるが、タバコが一番である。

・高血圧はリスク因子と傍腫瘍症候群に伴うものの二つの部分で関わりがある。

分類:
腎細胞癌は淡明細胞腎癌,乳頭状腎細胞癌,嫌色素細胞腎癌,オンコサイトーマに大きく分類される。ほとんどが淡明細胞腎癌である(70%以上) 。組織学的には,グリコーゲンが豊富で淡明な細胞質を有する腫瘍細胞が胞巣状配列をとり,間には類洞状腫瘍血管が発達する。発生母地は,近位尿細管上皮細胞である。

・VHL遺伝子に変異を持つ患者の40%に淡明細胞癌が発症することが知られている。これはVHL遺伝子変異が生じVHLタンパクが正常に機能しなくなり正常酸素状態下でも低酸素応答性の転写因子であるHIFαの分解が抑制され蓄積する。それにより血管新生促進因子や増殖因子が恒常的に賛成され血管新生や細胞増殖が引き起こされる。

・乳頭状細胞癌は腎細胞癌の約15%を占め、組織学的には,腫瘍細胞の大部分が乳頭状構造からなり,その表面を腫瘍細胞が被覆する。
−腫瘍細胞の性状からtype 1type 2に分類される。
Type 1:腫瘍細胞は小型,単層配列を示し,核異型は軽度で,細胞質は好塩基性であることが多い。
Type 2:腫瘍細胞は大型,核異型は高度で,偽重層が認められ,細胞質は好酸性であることが多い。発生母地は,近位尿細管上皮細胞である。
 
 遺伝性乳頭状腎細胞癌家系の原因遺伝子が,染色体7番長腕上のMET遺伝子であることが検出された。MET遺伝子は癌遺伝子に分類され,HIFの受容体である。

・嫌色素細胞腎癌:腎細胞癌の約5%を占め組織学的には,腫瘍細胞は大型で,多角形,細胞膜が強調された植物細胞様所見を示し,核は不整卵円形でレーズン状である。細胞質は豊富で,混濁網目状であり,時に好酸性顆粒状を呈することもある。発生母地は,集合管介在細胞である。

治療:
腎癌の治療は限局性の病変であれば外科的アプローチが原則である。

しかし、手術により切除できない場合や他の臓器に転移が見られた場合には、抗がん剤による化学療法が行われる。しかし、腎細胞癌の場合、これまでの抗がん剤ではがんに対する感受性が低く、一般的に化学療法が行われることはなかった。

 その中で、薬物治療として行われてきたのが、インターフェロンαIFN-α)製剤(商品名オーアイエフ、スミフェロン)やインターロイキン2IL-2)製剤(商品名イムネース)を用いたサイトカイン療法だった。サイトカイン療法は、肺転移などに有効な場合があるため現在でも行われているが、その効果は10-20%と低い。

・その後、分子標的薬も出現し、がんの増殖に関係する因子を阻害するという考えの下に開発された薬剤で、日本では、チロシンキナーゼ阻害剤であるスニチニブ(商品名スーテント)、ソラフェニブ(商品名ネクサバール)、アキシチニブ(商品名インライタ)、mTOR阻害薬であるテムシロリムス(商品名トーリセル)とエベロリムス(商品名アフィニトール)が認可されている。


各製剤について:
・スニチニブは、血管新生に関与するVEGF(血管内皮増殖因子)受容体と、腫瘍増殖に関与するPDGF(血小板由来増殖因子)受容体など複数の受容体を阻害する。

・ソラフェニブは、腫瘍細胞の増殖に関わるシグナル伝達を遮断することに加え,腫瘍細胞表面の血管新生を抑制することで癌の増殖を抑える働きがあり、腫瘍細胞と腫瘍血管の両方を標的とする経口マルチキナーゼ阻害薬、アキシチニブは、indazole誘導体である経口のレセプター型チロシンキナーゼ阻害薬であり,VEGFRPDGFRc-KITを主なターゲットとする。VEGFR-1VEGFR-2VEGFR-3に対する選択的な阻害薬であるが,PDGFR-βc-KITの阻害作用も有するため,血管内皮細胞に対する阻害作用に加え,血管周皮細胞に対する阻害作用も期待できる

ソラフェニブの有害事象として手足症候群等の皮膚毒性が報告されているが,本邦における皮膚症状の出現は欧米より高頻度である。

・エベロリムスやテムシロリムスのようなmTOR阻害薬のmTORとは、mammalian target of rapamycinと呼ばれるセリン・スレオニンキナーゼという因子で、細胞の生存や成長、増殖に関わることが知られている。このmTORを阻害すると、細胞の増殖や血管新生を抑制できることが研究で明らかになった。

転移性の淡明細胞癌の際の治療:
  腎に病変がある場合:原発巣を摘除し腫瘍細胞を減少させ免疫の賦活化を期待する腎摘除術(cytoreductive nephrectomy)を考慮する。
  画像で切除できる転移病変がないか?→あるならば切除も考慮する
  ないならばFirst lineの治療を考慮する。
−スニチニブ、テムシロリムス(リスクの低い淡明細胞癌)、高容量のインターロイキン2など
  効果なければSecond lineの治療を考慮
−アキシニチブ、ニボルマブなど
  ダメなら次のオプションを考慮する。
    − エベロリムス、ソラフェニブ


転移性の非淡明細胞癌の治療
  淡明細胞癌と組織や分子生物学的にも異なり、First line治療が定まっていない。Phase 2でスニチニブとエベロリムスの比較の報告があり、スニチニブの有用性が示されている。

放射線治療に関しては、抵抗性のものがほとんどであり症状緩和の目的で使用される場合が多い。

長々と書いてしまった。。。腎細胞癌は奥が深い。
最近腎臓でもonco-nephrologyは熱いトピックである。