前回に赤身肉とESRDリスクにふれたが、これに関連して最近研究結果が蓄積しているのがトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)だ。TMAOはリン脂質を腸内細菌が分解してできるトリメチルアミン(TMA)が、肝臓のフラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO3)により酸化されて作られる。血中TMAO濃度が動脈硬化、心血管系疾患のリスクに相関することが人間や動物で示されている(Nature 2011 472 57、NEJM 2013 368 1575)。
TMAOそのものは肉より魚に多く含まれる成分で、魚が海、とくに深海で生きていくのに必要な浸透圧物質だ。じっさい魚を摂取するとすぐに血中TMAO濃度はあがる(doi: 10.1002/mnfr.201600324)。だからもしTMAOが害なら、TMAOのおおい魚を摂取するのは動脈硬化にわるそうだ。しかし、赤身肉におおくふくまれるカルニチンにもTMAに似た構造があって、腸内細菌のはたらきでTMA、TMAOに代謝されることがわかった(Nat Med 2013 19 576)。TMAOが産生される過程が問題なのかもしれない。
肉類をとってTMAOがどれくらい身体につくられるかは、そのひとの腸内細菌の種類、そしてFMO3活性などによる。TMAOができないようにする方法も考えられているが、コリンアナログの3,3-ジメチル-1-ブタノール(DMB)は腸内細菌の組成をかえてTMAO産生をおさえ、動物で動脈硬化をおさえた(Cell 2015 163 1585、図)。この論文によればDMBは赤ワイン、バルサミコ酢、グレープシードオイル、一部のエキストラバージンオリーブオイルに豊富だった(料理の参考になれば)。
TMAOの動脈硬化に対する影響にも人種など個人差があるようだ。透析効率と予後をしらべたことで有名なHEMOスタディのコホートを分析した研究(JASN 2017 28 321)では、透析患者さんで血中TMAO濃度は高いけれど、心血管系イベントの相関は白人で直線的なのに対して、黒人では一定濃度までは危険があがるがそれ以上では下がった。アジア系ではどうだろう。これからより詳しいことがわかって治療や予防に結びつくことを期待したい。